●前回のおさらい●
繭を家に読んで、話し合う決心をした2人。
その繭が来るまでの時間を、2人で、比較的落ち着いた雰囲気で過ごしていたが……
とうとう、その時間がやって来た。
2004年08月19日 PM07:43 氷村邸
『ピンポーン』
インターホンの音が響いた、時間からして来たのは、恐らく繭だろう。
漸く、ご到着のようだ。
そんな繭は、龍斗に連れられて部屋に入室してくる。
それと同時に龍斗は、少し離れた場所で待機。
これについては私の要望。
最初は、龍斗が口を挟まない事も付け加えている。
それを見た繭は、向こうであった昨日の『婚約話』は無いにせよ。
何か感ずいたのか、やや警戒している様子が見受けられる。
思った以上に、警戒心が強い。
多分、コッチの私だと、この状況の時点で打破出来無いだろう。
―――そう言う私は、さっき龍斗が言っていたBの方だ。
私は、なんとか、この時間まで、体の占有権をキープする事が出来た。
でもこれも、いつまで持つかは解らない。
『早めに片付けよう』と思って、繭に席に座る事を薦めた。
彼女も、それに呼応した様に、すぐさま席に着く。
そして、時間がない私は、直ぐに口火を切った。
相手に口火を切らせると、色々厄介だし。
イキナリ、キレて、ナイフでブスッはお断りだ。
この体は、私のものであって、私のものでは無いのだから……
「ねぇ、繭ちゃん」
「なに~ぃ?どうしたのぉ~あゆちゃん?」
耳障りの悪い口調だ。
私は、こんな女に殺されたの?
情けないなぁ。
「ハッキリ、教えて欲しいの?繭ちゃんって、私の事、嫌い?」
「そんな事無いよぉ~。あゆちゃん好きだよぉ~」
「そっかぁ~。じゃあ、なんで龍斗に手を出すのかな?」
「えっ?あっ、あの、なっ、なんの話?私、知らないよ」
「惚けないでよ。さっき龍斗を問いただして、その話は、もぉ知ってるの」
「ちがっ、違うの。あっ、あれは、龍斗さんが、やれって言ったの」
「それも知ってる。だから私は、今、2人ともブッ飛ばしたい心境だよ……殺意さえ覚えてる」
繭に対して『ブッ殺したい』って言うのは、ほんとなんだけど。
それは、別の繭の話。
今の所ではあるけど、コチラの繭には問題がないみたい。
「……」
「じゃあ、もぅ一回聞くね。それを踏まえた上で、繭ちゃんって、私の事、嫌い?」
「うん……そうだね。大ッ嫌い。この世で一番、大嫌い」
嫌われているのは、向こうの世界でも解ってた。
だけど、まさか、世の中で一番だとは思っていなかった。
だとすれば『殺したい』って意味も解らなくはない。
でも、そんな訳の解らない理由で殺される覚えもない。
「クスッ。だよね」
「知ってたんだ。意外と性格悪いんだね」
「うん。私、滅茶苦茶、性格悪いよ。でも、なんでそこまで嫌われなきゃいけないのかだけは、どうにも理由が解らないんだけど?なに?私、アナタに何かしたっけ?」
理由は逆恨み。
それも、ハッキリと解ってる。
でも、自分の口から言わさせないと、自覚しない。
「何言ってるのかなぁ~~~?そんなの一杯あるよぉ~~~。だって……アンタのせいで私には仕事が来ない。『準優勝』が、でしゃばんなって感じだし。アンタが芸能人や、スタッフにチヤホヤされてる姿も訳が解らない。『準優勝』の癖に生意気。『準優勝』『準優勝』『準優勝』の癖に、なんで優勝した私より、アンタが優遇されてんのよ?こんなの納得出来無い!!誰が、どう考えても、おかしいじゃない」
やっぱり、こんな些細な理由だ。
だから、さっき言った。
理由の『逆恨み』って線も、強ち間違っていない。
これだから、女って言うのは困る。
嫌う理由が『学校の虐めよりレベルが低い』って言うのにも関わらず『人を殺してしまおう』とするんだから。
本当に、嫌な感じだ。
「全然おかしくないよ。だって、私、運が良いもん。アナタは、それに勝る運を持ち合わせてなかった。ただ、それだけじゃないの」
「冗談でしょ!!納得いかない!!そんなんで、納得しろって言う方がどうかしてる!!」
「ねぇ……今まで、何を聞いてたの?龍斗も言ったでしょ。この業界では『優勝』なんて、ちっぽけな『箔』より、運の方がよっぽど大事だって。これについては、アンタも身に沁みてると思うんだけど」
「じゃあなによ?アンタの言う、その運って言うのは!!」
「氷村龍斗……って言う、運。生まれた時から、私にだけ与えられた最高の運。私に有って、アナタに無いものよ」
「そっ、そんなもんぐらい、なんだって言うのよ!!」
「馬鹿ねぇ。アンタだって、そのお陰で、今の立ち位置なんじゃないの?これについて、何か言い返せる?」
「あぁそうよ、確かに、彼の功績は大きいわ。でも、そんなの私有り気の話じゃない」
「アンタ、ほんとに馬鹿なのね。アンタなんかが、普通にやって売れる訳ないじゃん。我儘、自己中、お嬢様気質……オマケに、なんでも自分の思い通りにならなきゃ嫌な子供気質。そんな横暴で自分勝手な奴、誰も相手にしないのよ……でもね」
繭が怒り出しそうだったので、そろそろ落ち着かせないと……
彼女の限界が近い。
「でも?……でもなによ?まだ何か言い足りない事でも有るの!!」
「有るよ。……それでも、アンタが努力して変ったって、事実だけは賞賛に値する。私も、アンタの事が大嫌いだけど。そこだけは認めざるを得ない」
これだけは、確かに、認めざるを得ない所だ。
彼女は、自分の全てを曝け出してまで、家族の為に貢献した。
この辺に関しては、逆恨みだけで終わった、卑怯な向こうの繭とは大違いだ。
だから、きっと、コッチの繭ちゃんなら変われる筈。
気持ちの持ち方が……違うから。
「私が……変わった?なっ、何、言ってるの?アンタさぁ、頭おかしいんじゃないの?私は何も変わってない!!」
「変わったよ。自分の家の為だけに、自分を殺せた。これは、そんなの簡単に出来る事じゃないよ」
「うっ!!くっ!!龍斗さんを利用しただけ!!何も変わってない!!」
「じゃあ、なんで売れたのよ?アンタの持論じゃ、今、言ってる事おかしいよ」
「うるさい!!うるさい!!うるさい!!わかんない、私だって、わかんないよ!!なにがなんだか解んないよ。アンタは、私に何が言いたいのよ?」
私相手じゃ、認められない事が多いんだろうな。
でも、事実と向き合える様になって欲しい。
それさえ出来れば……『彼女は、多分もぅ大丈夫だ』
向こうの馬鹿な繭の様な凶行はしないだろう。
そして、私が今から放つ言葉が、彼女にとってのその楔の役目をはたしてくれる筈。
龍斗と話していた時に私が言っていた『最終手段』って奴だ。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!