●前回までのおさらい●
浮気だと誤解された龍斗は、家を飛び出した歩美の後を追い。
龍斗の自宅の前で歩美に追い付くが、その時には、柄の悪いナンパ師や、ファンの取り囲まれていた。
ソレを、なんとか撃退した龍斗は、歩美を家に送ろうとするが……『ビンタ』が飛んで来た。
「最っ低ぇ~!!ホント触んないでよ。私は、あんたの毒牙になんか掛からないんだから!!この女誑し」
「ちょ、ちょっと待ってくれよ、アユ……」
『バッシィ~ン!!』
言い訳も何も出来無いまま、速攻で2発目のビンタは発射された。
………いたい。
以前からそうだが、コイツのビンタは女子の威力では無い。
脳の芯からシェイクされて、目がチカチカして、頭もクラクラする。
―――しかも今は、完全にお怒りだ。
通常の倍近くの威力が有ると思われる。
これはまさに、歩美のおばちゃんに匹敵する威力だ。
「自分の彼女の家で、彼女の友達に手を出すなんて、どういう神経なのよ!!頭おかしいんじゃないの?この色情魔!!アンタなんか最低!!」
「いや、あの、だから、待てって、あれは……」
『バッシィ~ン!!』
矢張り、言い訳無用な様で。
怒ったや、恨みの篭った目で俺を睨みながら、彼女の手は、俺の顔を横切って行く。
………………。
「言い訳なんかするな!!私は、アンタなんか、ちっとも恐く無いんだからね。アンタなんか大嫌い!!」
『バシッ!!』
4発目が放たれたが、俺の頬を打つ事はなかった。
今度は、上手く歩美の手を取る事が出来たからだ。
流石に、こんな腰の入った平手を、何発も耐えれたものじゃない。
例え、俺に非が有ったとしても、これじゃあ身が持たない。
死んでしまう。
「離せ!!離せ!!離せ!!…………離せったら~~!!気安く触るなぁ~!!妊娠する!!」
「ごめん……俺、馬鹿だから、あんな事になっちゃったけど。……でも、信じてくれ。繭ちゃんとは、なにもない」
「嘘よ!!……もう私の事なんか、どうでも良くなったんでしょ!!別れたいんなら、別れてあげるから、触らないでよ。気持ち悪い」
「気持ち悪いのは認めるけど。あんま馬鹿な事だけは言ってくれるなよ。それに、何も無いって言ってるだろ。そんなに俺が信用出来ないのか?」
「じゃあ龍斗は、あの状況を、どう信じろってのよ!!アンタだったら、信じれるの?私があんな事してても、アンタは信じるって言うの?どうなのよ!!」
「俺は、絶対に、お前を信じるよ。絶対に疑わない。もし、お前がそうだと言うなら、嘘を付く筈が無い」
歩美は、俺に嘘を付かない。
照れて、自分の意に反する事を言う事はあっても、嘘だけはつかない。
俺は、そう信じてる。
「えっ!!……なに?アンタ、あの状況でも信じるって言うの?」
「ったりまえだろ。信じなくて、どうするんだよ。まぁ、お前以外なら信じないが、お前だったら信じるしかないだろ。自分が惚れてる女が言う事なんだからさ」
漸く、この俺の言葉を聞いて、少し落ち着いたようだ。
ジタバタと手を振り解こうとする仕種すら無くなった。
これで、やっと、ちゃんと話す機会が出来たみたいだ。
***
暫くの沈黙の後。
不意に、嘘を付くのが嫌になった俺は、繭ちゃんとの出来事や経緯を、全て正直に話した。
「これが、さっきの真実だ。……俺は、お前の両親に誓って、嘘は付いてない」
「プッ……って、なによそれ?なんで誓う相手が、私の両親なのよ?」
まぁ、言われてみればそうだな。
「あぁ~まぁ、なんて言うのかなぁ。自分を信仰しない人には、一切利益を与えない、何を考えてるのか解らないケチな神様なんかより、お前が一番信頼してる人だと、そう思ったからだが」
「プッ!!なにそれ?馬鹿じゃないの?……でもまぁ、今回は、私の早とちりが招いた事だから、繭ちゃんとのキスの件も、大目に見てあげる」
「はいはい、そりゃあ、どうもありがとうございました」
俺は、子供が拗ねた様に口を尖らせて、感謝を伝える。
しかしまぁ、意外に、コイツが寛大で良かった。
さっき正直に話した(キスの件)時は、完全に殺されるもんだと思っていたからな。
言いながら俺は、ジィ~と歩美を見ていたらしい。
「なによ?何か私の顔に付いてるの?」
訝しげな顔で、俺の行為を不思議の思ったのか、有りふれた質問して来る。
「あぁついてるよ、俺の大好きな歩美の顔が」
「なっ!!……もぅなに言ってんのよ。……じゃ、じゃあさぁ、何処が一番好きなのよ?」
「……今は、唇かな」
自然に、お互いの顔が接近して行く。
歩美は目を瞑って、俺がキスをするのを待っている。
だから、俺も目を瞑ってキスをする。
少しの間、時間が止まってる様に感じた。
そんな中、不意に目を開けた俺に。
チャリの後部に括りつけられたままのプレゼントが目に入った。
今まで、完全に忘れられた存在だ。
2度目の歩美との貴重なキスを離すのが勿体無い気がしたが、俺の方から、ゆっくりと離す。
「…………アッ!!そうだ、そうだ。歩美、誕生日おめでとう。これやる」
俺は、その場を取り繕うように、チャリの後部に積んであったプレゼントを急ぎ渡した。
「えっ?なに?……えっ、えぇ~っと、あの~、あっ、ありがとう」
突然の事に焦った様に、手渡された包みを受け取る歩美。
「ねっ、ねぇ、これ、開けてもいいの?」
「バカチン。その為にプレゼントしたんだから、開けなくて、どうすんだよ。お好きにどうぞ……只、あんまり期待すんなよ。完全に先取り商品なんだから」
「先取り?……なんか、嫌な予感がするんだけど」
「まぁ、そう言わずに見てみ」
開ける事が不安になったのか、ゆっくりと、丁寧に包装紙を剥がして行く。
全てを剥がし終わり。
中身を見て、歩美は感嘆の声を上げる。
「なんで?なんで龍斗?これ、前から私が欲しがってやつでしょ。なんでアンタが知ってるのよ?」
「ほら、前にも言っただろ。俺はな、お前の事なら、何でも解るんだよ。だから、お前が欲しい物なんか、全てお見通しって訳だ」
「ホントに嬉しいよ………龍斗」
嬉しさが蔓延して来る程の喜びが伝わって来る。
それでこそ、プレゼントした甲斐があるってもんだ。
―――まぁ実際、俺は、彼女の誕生日を忘れる様な最低な奴なんだけどね。
今度は、こちらが申し訳なさが溢れて、彼女の笑顔が直視出来無い。
反省が絶えないな。
何だか、そんなやりとりをしている内に。
何時の間にか、空の方が、ややグズついた天気に成って来た様だ。
―――こりゃあ、ひと雨来そうだな。
「なぁ、歩美」
「なに?」
「ものは相談なんだが。ちょっと、俺ン家に寄っていかないか?なんか1雨来そうな感じだしさ」
そう言った瞬間。
タイミング良く、雨がポツポツと降り始めた。
「あっ、ほんとだ。なんかポツポツ来たみたいね。ん~~~そうだね~。でも、どうしようかなぁ?」
「うん?なんだ寄らないのか?」
「だってさぁ。一応、これでも女なんだし……ほら、おじさんも、ウチに行ったままでしょ。今、龍斗の家って、誰もいないんじゃないの?」
あっ……
「えっ!!いや、おい、勘違いすんな。俺は、別に、そう言う事を言ってるんじゃないんだ」
「ふ~~~ん、どうだか。じゃあ、全然興味ないんだ」
「いや、そこは、そうじゃないけどさぁ」
「ふふっ、ゴメン、ゴメン。じゃあ、少しだけお邪魔しようかな。龍斗ん家行くのも、久し振りだしね」
考えてもいなかった。
そう言えばクソ親父は、歩美の家で爆睡してるんだった。
―――アカン!!
このままやったら、思考がエロモードになりそうや。
等とエセ関西人になって、誤魔化そうとしたが、基本的にそんなのは無理。
1度考え出したら最後、余計な妄想は膨らむ一方。
そんな自分に危険を感じながらも、情け無い童貞野郎は、彼女を家に上げるのだった。
―――まぁ、なんだかんだ言っても、絶対、何もないだろうけどね。
歩美に関してだけは、凄くヘタレですから……俺。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!