●前回のおさらい●
朝の登校時には、他愛のない話をしてしまい、一番重要な『自分の誕生日』を伝えられなかった歩美ちゃん。
なので、次の休み時間には、それを龍斗に伝えようとして気合を入れるが……
って思ってたんだけど……ほんとアイツ最低だ。
次の休み時間、颯爽とアイツのB組に行ったまでは良かったんだけど、アイツったら、早々に『泊まりの仕事』に行って居ないでやんの!!
もぅ馬鹿じゃないの!!
これは私がだけど……
なので、この日の授業で私は、魂が抜けた様にボォ~っとしたまま。
その上、漫画みたいにチョークが飛んできて顔面命中。
久しぶりに出た部活では、これまたボォ~っとしてたもんだから、先輩に怒られっぱなし。
家に帰った後も、風呂に入った後も。
ベットにうつ伏せになって、足をバタつかせながら『う~~う~~』とモガクだけだった。
そして登校時以外、結局アイツに逢えずに休み初日は終わって行く。
「うぅ~~~うぅ~~~」
とか、悲しい振りしてベットでうぅ~うぅ~言ってはいるんだけど。
明日、絶対にアイツが来てくれる事を確信ながら、1人うつ伏せでニヤニヤとニヤける私。
***
2004年05月01日 PM5:22 井上邸
5~月♪1日は~♪私の誕生日~♪↑↑(喜び)
だ~け~ど♪彼氏から~連絡ないよ~♪↓↓(沈み)
し~か~も~♪昨日から仕事でいない~♪↓↓(泣き)
…………うわ~ん!!
なにこれ?
なにこれ?
おかしいって!!
どう考えてもおかしいって!!
去年のアイツは、色々なサプライズまで用意して誕生日を祝ってくれたんだよ。
なのに今年は、なんも無し以前に連絡も無い。
付き合って1年ちょっと、逢う機会も少なくなって、少しずつ冷めていく。
……って、これじゃあ、早くも、倦怠期のカップルじゃん!!
ひょ、ひょっとして、仕事が忙しくて忘れてるとか……?
ない!!
あぁ~ない、ない、それは絶対ない!!
アイツが、こう言った重要なイベントを、早々に忘れる訳がない。
っとなると……うわ~ん!!やっぱ倦怠期じゃん!!
嫌だよぉ~、それだけは嫌だよぉ~。
ねぇ、私の気に入らない所が有るんだったら、出来るだけ……うぅん、全部直すからさぁ~。
仕事忙しくって来れないなら100歩でも1000歩でも譲るから、お願いだから、せめて連絡だけでもしてよぉ~。
このままだと、精神崩壊起こして、ホントに死んじゃうよぉ~。
等と、昨日に引き続きベットで『う~う~』唸る私。
でも、昨日と確実な違いが有るとすれば、全然ニヤける余裕は一切ない。
どちらかと言えば、後数時間、この状態が続けば、ご臨終してしまいそうな勢い。
女の子にとってはね『記念日』と言ったイベント事は、それ程大事な物なんだよ。
なんか、憶えてる、憶えてないで、自分の愛され方を図ってしまうんだね。
だから今は、最低最悪な状態。
『コンコン』
「歩美~居るの?」
「お母さん……」
「入るわよぉ~」
ノックして来たのはお母さん。
多分、誕生日のお祝いをしてくれるって話なんだろうけど……今は、そんな気分じゃないなぁ。
『ガチャ』
私の誕生日がメデタイのか、嬉しそうな顔でお母さんが部屋に入って来た。
そんな母に私は『この世が終焉が迎えるのか?』ってぐらい、絶望した顔を母に向ける。
「なに?お母さん……」
「歩美。アナタ、その顔なに?どうしたの?」
「うっ、うん……ちょっとね」
「そんな顔をしてるって事は、またウジウジ1人で悩んでるんでしょ」
「……うん」
私は、母に対してだけは、いつでも素直になれる。
きっと、お母さんが大好きだからだろう。
それに母は、いつも私が悩んだら、的確に助言をしてくれる良い相談相手でもある。
「それで……今日はどうしたの?龍斗君の事?」
「うん」
的確に悩みを当てられても驚かない。
母は元々そういう人だし、それ以前に女性……いや、母親でもある。
だから娘の私の事位、手に取る様に解るんだろう。
「なにがあったの?昨日の様子から言って喧嘩でもしたの?」
「うぅん。喧嘩はしてないよ。寧ろね、昨日は、そんな時間も無かった」
「じゃあ、どうしたの?」
「うん、あのね。今日、龍斗からなんの連絡もないんだ……アイツ、私の誕生日忘れちゃったのかな?」
「クスッ。なに言ってるの、馬鹿ねぇ。あの子が忘れる訳無いでしょ」
「じゃあ、どうして連絡ないの?」
「今は、まだ仕事で手が離せないんじゃないの?忙しいんでしょ、歩美の彼氏は」
「『!!』おっ、お母さん!!なんでアイツと、私が付き合ってるの知ってるの」
知らなかった。
まさか私達が付き合ってる事を、お母さんが知ってたなんて……
「ふふっ。それぐらい随分前から知ってるわよ……それで?」
「『それで?』って言われても……それだけなんだけど」
「情けない子ね。それぐらいで根を上げてたら、龍斗君の彼女なんか勤まらないわよ」
「……」
「見るからに、あの子、女の子だったら誰にでもモテるでしょ。それにもぅ将来設計もして中学生なのに仕事もしてる。歩美が、この先も、あの子と付き合って行こうと思ってるんだったら、少しぐらい我慢しないとね。歩美は、もう少し大人にならなきゃ」
「だって……でも……解ってる。解ってるんだよ……でも、寂しいんだもん」
お母さんの言う事は、最もだと思う。
アイツと付き合う以上、そう言った問題は、常に満載に積まれている。
龍斗が、大人社会で生きている人間なんだから、これは仕方が無い。
でも、それって、社会のシガラミなんかを知ってる大人だから我慢出来る事であって。
所詮、まだ夢見がちな女子中学生の私には、これを我慢するなんて事は、果てしなく無理難題。
解っていても、納得も出来無ければ、そんなに早く大人にもなれない。
それにお母さんが言った『アイツがモテる』って言うのも、私にとっては、大きな不安要素。
どこかで、他に好きな女の子が出来てもおかしくない。
……っとなれば、自ずと、自分に、あまり自信の無い私は、悩んでしまう。
悪い連鎖が起こって、常に心配で仕方が無い。
これが私の置かれた現状だ。
「じゃあ、いっそ、もっと学生らしく我儘になったら?」
「そんな事したら嫌われるよ」
お母さんは、この辺の私達の関係を良く解って無い。
って言うよりも、モテる人生しか歩んで来ていないお母さんには、絶対解らない話だ。
そりゃあ、お母さんぐらい可愛ければ、私だって自信を持ってそうする。
でも、何所をどう頑張っても、私は私でしかない。
当然、私が母の言う通りの事を起こせば、今まで築き上げた関係が台無し。
鬱とうしがられて、嫌われるのがオチだ。
「どうして?女の子は、少し我儘な位でも良いのよ」
「お母さんには解らないよ」
「どうしてそう思うの?」
「だって……私、お母さんみたいに可愛くないもん」
「ちょ!!悲しい事を言わないでよ、歩美。私がお腹を痛めて産んだ自慢の娘は、そんなに自分を卑下する様な顔なの?」
お母さんは、手で目を押さえて泣いている。
私だって、自分がそんなに『ブス』じゃないとは思ってる。
でも、アイツには、その程度『自信』なんて、なんの意味も無い。
お母さんが思っている以上に、アイツは女子にはモテるし、誰にでも好かれる……それに何より、誰にでも優しい。
そんなアイツだから、結局、心配しても、心配し足りない。
それでも母を泣かせた事には、何も変わりは無い。
母親にとって娘は、常に輝いていて欲しい物なんだろう。
「お母さん……」
「歩美……もぅ龍斗君とは、別れなさい。娘に、こんな思いをさせる男なんか最低です」
「えっ?」
「娘を不幸にしかねない男なんか、こちらから願い下げ」
「ちょ、ちょっと待ってよ。いやだっ……いやだよ、そんなの。お母さんどうしたの?そんな事を言わないでよ。お母さんも知ってるでしょ。アイツは良い奴だよ。全然悪い奴じゃないよ。アッ、アイツほど、私を大事にしてくれる奴なんかいないよ」
「……プッ。ほらね、歩美、自分で良く解ってるんじゃない」
母は、さっきまでの泣き顔は消え、ケロッとした顔をしている。
えっ?
えっ?
どういう事?
「えっ?」
「歩美……お母さんだって、龍斗君が悪い子じゃない事ぐらい知ってるわよ。馬鹿ね」
「えっ?えっ?じゃ、じゃあ、なんであんな事を言ったの?」
「歩美は、なにも気付いて無いかも知れないけど。龍斗君、アナタにメロメロなのよ……流石ウチの娘。良い男をGETするわね」
「うっ、えっ?」
意味が解らない?
なんでアイツが、私にメロメロなんて結論になるの?
確かに、この1年、アイドルなんてやってたから、少なからず男性には人気になった。
だからと言って、それは、私の本性を知らないファンの話。
失礼かもしれないけど、そんな人達と、龍斗じゃ比較対称にすらならない。
例え、私が芸能人的に人気が有っても。
アイツを基準に考えたら、矢張り、なんの意味が無い。
って言うか、皆無。
どこにも、その結論に至る理由が見つからない。
「歩美、アナタ、ほんとに全然身に覚えがないの?」
「うん、ない」
「龍斗君も報われないわね。可哀想」
「だってぇ。そんな素振り、一向に見せないよ、アイツ」
「アンタ、かなり、あの子の『依存症』になってるわね」
「うん。まぁ、それは否定しないけど。お母さんの言った『メロメロ』なんてどこにも無いよ」
「じゃあ仮に、友達に『アイドル』になりたいとか言われたら、どうする?」
「うん?何の話か良く見えない」
難しい。
話が遠回しで、回答に困る。
「そっか……じゃあ、質問を変えようか。歩美の好きな人が『夢』を語ったら、どうする?」
「何を置いても必死に協力する」
「ほら、それが答えなんじゃないの?好きな人の夢=自分の夢でも有るのよ。だからあの子だって、大好きな歩美に為だけだったら、必死なれるんじゃない」
「うん、確かに、そうなんだけど……ホントに龍斗は、そこまで私の事が好きなのかなぁ?」
「好きなんて子供染みた話じゃないわ。あの子がアナタに対して思ってるのは『愛してる』よ」
「あっ、あっ、愛してる!!って、お母さん。私、まだそう言うのわかんないよ」
「ふふっ、だから『早く大人になりなさい』って、最初に言ったでしょ。多分、龍斗君は、本気でそう思ってる筈よ」
「ホッ、ホントにアイツは、そう思ってくれてるのかなぁ?」
大人の意見を聞いて安心したいのか、私の口からは勝手に、そんな言葉が出ていた。
私の握り締められた両手には、汗が滲んでいる。
「さぁ?……だって、これはお母さんの見解だもの。自分の娘を贔屓目に見るのは親の習性よ」
また母は、あの悪戯な笑顔でそう答えた。
上げては落とす……お母さんって一体?
「そうだよね」
「そうよ。それで歩美……龍斗君を誘う決心はついたの?」
「うっ、うん、付いたと言えば、付いたんだけど……でも、まだちょっとね」
「ふふっ、ほんとに仕方が無い子ね。じゃあお母さんが、龍斗君に電話入れといてあげるわよ」
「ほっ、ほんと……有難う、お母さん」
「今回だけよ」
母は、そう言って私にウィンクして、立ち上がったと思ったら直ぐに部屋を出て行く。
階段を下りる際には。
既に、携帯電話を手に、龍斗に連絡を付け始めていた。
それにしてもお母さん……それじゃあ、どう見ても『女子高生』だよ。
何故だろう……少し不安だ。
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