「なぁ、さっきの話なんだけどな」
「まだ言うか!!」
もう1発放つ勢いで、右手を垂直に挙げる。
今度喰らったら、事故らない自信は、全くと言ってない。
脳細胞が、完全に破壊されてしまう様な気がした。
それに蓄積ダメージも思った以上に残っている。
俺の頭には『死』の文字と、なんかわからないカウンターが付いている。
早めに、この戦闘を何とかしないと、死んでしまう。
「ちょ……だから、ちょっと待ってって!!お前のその凶悪なチョップは、こんな所でやったら危ないし。大体、怒んないって言ったのは、お前じゃん」
「でも、普通、そんな事を言うかなぁ……」
待て待て!!
確かに、俺もデリカシーの無い言い方をしたのは、悪いとは思うが。
オマエねぇ。
普通の女の子は。
チャリの運転中に、あんな恐ろしいチョップを男に喰らわせませんよ。
「悪かったよ。……でも、悪い話ばかりでもないんだぜ」
「なによそれ?どう言う事よ?」
「あのさぁ、お前『国民性豊かな美少女コンテスト』に出てみねぇ?」
漸く、俺が言いたかった本題に入れた。
実は昨晩、親父に、この馬鹿『井上歩美』のコンテスト出場をせがまれていた。
勿論、こんなモノは基本的に『デキレ-ス』
優勝をする子なんかは、事務所の兼ね合いとかで、最初から決まっている。
……でもな。
今年に限っては、少し様子が違って。
実は『準優勝』にする程の子がいなくて、プロデューサから親父が直接頼まれたらしい。
突然の頼み事に困った親父は、考えた末に、俺と歩美に白羽の矢を立てた。
要するに、この件に関しては。
歩美さえOKすれば、アッという間にコイツは『国民的アイドル』になるって寸法だ。
とは言え、当の本人はと言うと……
「『??』ヘッ?アンタ、なに言っての?」
などと、この有様。
ただただ、混乱しているだけだ。
「お前、人の話を聞いてんのか?」
パニくっているのは解るが、余りの『お間抜けさ』に声を掛けてみる。
「…………むっ、無理、無理!!そんなの絶対に無理!!無理に決まってるでしょ!!なに言ってるの?馬鹿じゃないの、アンタ?」
「なにがだよ」
「だって『国民性豊かな美少女コンテスト』だよ。全国から可愛い娘ばっかり集まって来るんだよ。……そんなの、絶対、無理決まってんじゃん。恥かいて終わりじゃない」
ハァ~……
矢張り一般人には、このコンテスト自体が『デキレ-ス』だと言う事は、余り知られてないらしい。
業界では、当然至極の事なんだが……
そうなると、説明が少々厄介だな。
しゃあねぇなぁ。
一般的に考えて、此処は1つ上手く乗せるしかない様だ。
―――面倒くさっ!!
「ってか、お前さぁ……寧ろ、お前が、何考えてるのか知んねぇけど。まさか、厚かましく優勝でもする気なんじゃねぇだろうな?俺は、ただ『出てみないか?』って、聞いただけだぞ」
「いやっ……そんな、厚かましい事は考えてないけど……」
「だろ。だから、出場するだけで良いんだぞ。出場したって言うスティタスの為に出るんだからよ」
「意味は解らなくもないけど。でも、なんで私が?」
あぁ、もぉ、コイツだけは……完全に、俺との約束を忘れてる様だな。
―――世界一最悪だな、この女わ。
「おまえなぁ、忘れてるだろ」
「なにをよ?」
「約束しただろ、俺と……」
「だから、なにをよ?」
突然だが、急ブレーキを掛けて。
学校を目前にして、道路の脇に自転車を停止させた。
何も憶えていない、この鈍感アルツハイマー女に恥ずかしい事を言う為だけに……
「俺、オマエに言わなかったっけ?」
「なにをよ?」
「俺は、俺の力で『お前を芸能人にしてやる』って言ってなかったか?忘れんなよな、このバカチン」
全く、面倒臭ぇ~~~。
どこ迄、俺に、こんな恥ずかしい事を言わせるつもりだよ。
まぁ、そんな心情は、ともかくとして、俺は、こいつには、嘘だけは付きたくない。
そりゃあ勿論、必要な嘘は付くが(『国民性豊かな美少女コンテスト』の準優勝が決まっている事)
だけど、約束した事は、どんな卑怯な手を使ってでも実行するつもりだ。
……こいつが喜ぶ事、それが俺の一番の喜びなのだから。
「うそッ……龍斗、そんな昔の事も憶えてくれてたの」
意外にも、少し涙を流しながら、嬉しそうに言葉を発する。
こういう仕種が出るって事は、実はコイツ自身も、この事を憶えていたのかも知れないな。
「あのなぁ。毎日顔つき合わせてんだから、忘れる訳ないだろ。ってか、寧ろ、どうやったら忘れられるのか、是非ご教授願いたいもんだ。……って言っても、勘違いすんなよ。普通に考えたら、まぁお前が幾ら頑張った所で、精々『書類選考』をパスすりゃ良い処だろうからな」
どうにも、こういうシ-ンは苦手だ。
憎まれ口の1つも叩かないと、場の空気が持たない。
まぁ何とも情けないこった。
でも、言い訳するけど。
俺は13歳の儚いチェリー・ボーイですから………基本的に、経験が少な過ぎる。
そんなに大人の人みたいに、上手い事言える訳が無い。
「豪い言われ様ね。でも……憶えてくれてただけでも嬉しかったよ」
「おいおい『嬉しかったよ』って、なんだよ?勝手に過去形にするには、まだ早いんじゃないか?」
「何でよ?アンタが、今、自分自身でそう言ったんじゃない」
「確かにな。確かに、お前の実力じゃ『書類選考パス』が良い所だろう。がだ……お前は、完全に、大事な事を忘れてる」
「なんか有ったっけ?」
「あのなぁ。オマエには、俺って言う唯一無二の最高なスタイリストが付いてるんじゃねぇのか?まぁ優勝は出来なくても、それだけで、もぉ最終審査出場決定ってもんじゃないのか?」
「あっ、あっ、呆れたぁ~。アンタ、どこから、そんな自信が湧いて来るの?とんだ自信過剰ね」
クスッと、歩美は微笑んだ。
「当たり前だろ。俺は、お前の事なら、どんな事だって解るぜ………なんせ、幼馴染みなんだからな」
「……」
あれ?
なんか、妙な間が開いてしまったぞ。
なんだこれ?
オイオイ、こんな時は、どうすりゃ良いんだよ。
イカン。
いい考えが、なんも浮かばないぞ。
ヤバッ!!
どうしよ?
―――ダサイぞ俺様!!
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