●前回のおさらい●
コチラの世界での体の主動権を得た歩美ちゃん。
その後、直ぐ様、龍斗の逢って、今日ある悲劇を語ろうとする。
「ちょ、ちょっと待て。殺される?殺されるって、どういう事だよ?悪いが、話が突然過ぎて、なにも見えてこないぞ」
「うん……」
「それに信じて貰えるとか、なんとか言ってたけど。それって、どういう意味なんだ?」
「うん。信じられないかも知れないけど、私、アナタの知ってる歩美じゃないの」
「はぁ?俺の知ってる歩美じゃないだって?お前……なに言ってんだ?」
「うん、だよね。そうなっちゃうよね。でも、お願い。私の頭が、おかしくなったと思ってくれても良いから、話だけでも聞いて」
「あぁ……うん」
こんな事を言っても信じて貰えないかも知れないけど、今はこうするしかない。
何故なら私は、もぉアナタの悲しい顔なんて2度と見たくないの。
例え、今日1日だけの付き合いであっても、この事態はなんとしても避けたい。
今日1日を越えれば、後は、この世界の私が何とかしてくれる。
そう願うしかない。
「おかしな事を言って、ごめんね。それでなん……」
「わっ、わりぃ。此処じゃあ、ちょっとなんだから、家に入んねぇか?」
「そうだね」
言われるがまま室内に入る。
相変わらず、家の中は、感心するぐらい整然としている。
私は、そのままリビングに通され、ソファーに腰を掛ける。
龍斗は、その間に、台所から飲み物を持って戻ってくる。
「取り敢えず、飲み物でも飲んで、落ち着いて話してくれ」
「ありがと……」
飲み物を一気に飲み干し、話す体勢を整える。
「それで……さっき『殺される』って言ってたけど、どう言う事なんだ?」
「うん。多分、信じないと思うけど……私は、この世界の人間じゃないのよ、違う次元に居た歩美なの」
「あぁ~っと……確認するが、それ、本気で言ってんだよな?」
「うん」
「う~ん、そっか。じゃあ、話を続けてくれ」
「信じてくれるの?」
「悪いが、まだ半信半疑だ。ただ言える事は、歩美は、そんな冗談を言って、俺を休ませる様な女じゃない」
「うん、ありがと」
龍斗は半信半疑と言ったけど、間違いなく信用してくれている。
「まぁそれで、そっちの歩美は……お前は、どうなったんだ?」
「今日、この日に殺された。……正確には、まだ死んでないんだけど。もぅ恐らく私は助からない」
「じゃあ、もぅ1つ質問。コッチの歩美は、今どうなってるんだ?」
「ごめん……解らないの」
「どう言う事だ?」
「うん……私は、アナタに告白して貰った日から、今まで、ずっと走馬灯の様に、思い出の中を彷徨っていたんだけど『今日と言う日が来て、何とかしなきゃ』って思ってたら。朝には、この体に居た。……信じられないよね。こんな話」
「信じるも、信じないもないだろ。現実そうなってんだろ」
「……うん」
彼の目には疑いはない。
そこまで信じて貰えるのは、コッチの世界でも、アッチの世界でも同じの様だ。
どっちの歩美も愛して貰っている。
向こうのアイツが言ってた『お前を信じる』って話は、嘘じゃないんだ。
「で?俺に、どうしろって言うんだ?」
「うん……出来れば、今日1日、何所にも行かないで欲しいの」
「そっか……もう一回確認するけど。それ、本気だよな」
「うん。本気」
「解った。なら、今日は1日、お前に付き合う。でも、嘘だったら承知しないぞ」
「うん。信じてくれて、ありがと……絶対、こんな事、信じて貰えないと思ってた」
「自分でもな。すげぇ馬鹿な話だとは思うんだけど……信じるよ。お前が、何所の歩美だろうと、歩美には違いないんだろ。なら、オマエの言葉を信じないで、どうするんだよ?」
「あっ、あっ、ありがとう、龍斗。何所の世界の龍斗も変わらないね……大好きだよ」
「うん。俺も、そんなお前が大好きだよ」
そう言って龍斗は、そっと抱きしめてくれた。
私は、あの空間の中で1年少しの間を過ごし。
本当は、少し、この世界の自分に嫉妬していた。
抱き合える体。
優しい言葉を掛けて貰える体。
いつも心配して貰える体。
本当に羨ましかった。
そんな中、今だけでも、自分の体を得てしまった。
だから、そんな感情が表面化して、龍斗の抱きしめた体に力を入れて泣いてしまった。
「もっ……もうね、逢えないと思ってた!!もぅね、抱きしめて貰えないと思ってた!!……ゴメン、ゴメンね。少しだけこうさせて」
「歩美……」
いけない。
いけないよ。
私が、歩美なのには違いないけど、私はコッチの世界の人間じゃない。
だから、これは、龍斗に浮気させてるのと同じだ。
体を借りてるのに、そんな事しちゃいけないよ。
「でもね……ごめん。この体は、こっちの歩美のものなんだよね。……だからゴメンね」
そう言って龍斗の体を押し放す。
「ふぅ~……少しぐらい甘えろよ。お前だって歩美なんだろ。お前が甘えるのは、いつもの事だろ」
「うん、そうだね、ありがと。でも、もぅ大丈夫だよ。それにコッチの歩美に悪いしね」
「そっか……」
納得してくれたのか、龍斗は、私の体には触れない。
本当は、もっと龍斗の体を感じてたいんだけど……それはダメ。
私は、そんな彼を見ながら、今日1日を、どう過ごすか考えていた。
そんな中、龍斗はある事を口にした。
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