●前回のおさらい●
事件の概要はある程度は語った。
だが真犯人だけは、まだ歩美ちゃんの口からは語られていない。
「それは一体、誰なんだ?」
「言えない」
「なんでだよ!!お前、ソイツに殺されたんだろ!!」
「……向こうではね。でも、この話を聞いてもまだ、自分に思い当たる節はない?」
「えっ?……まさか…白石……繭……か?」
「うん。そうだね。しかも向こうの龍斗は、アナタほど繭に恨みを買ってなかった……けど、結果は聞いての通り、無惨なもの。確率から言えば、十分アナタの方が危険な状態なのよ」
「じゃあ、なんで教えてくれなかったんだ?」
「勘違いしないでよ龍斗。私は、アナタ達を助けるつもりはあるけど。自分勝手な思い込みだけで妄想を言うつもりはないわ。これは、何処まで行っても向こうでの出来事なの。……それに、これだけは忠告して置いてあげる。私でも、あんな事させられたらアナタを殺すわ」
「お前が、俺を殺す?だと」
「うん。間違いなく殺すわ」
まだ理解出来無いようだ。
これは難しい話では有るんだけど。
此処をキッチリと理解して貰わないと、永遠に繭の恐怖が消える事はない。
自分が如何に彼女に酷い事をしたのかを、理解して貰わないと解決の糸口すら見えて来ない。
それに、あんな女の子の気持ちを考えない事を、繰り返す愚かさも知って欲しい。
じゃなければ、どうやってもフォローのしようもない。
兎に角、ただ助言したからって、単純にアッケラカンと助かって貰っては困る。
全てが繭の逆恨みだとしても、理解と対応策は必要だ。
そう思えた。
「なんで……なんでだよ?なんで俺が、アイツに恨みを持たれなきゃいけないんだよ?助けてやったのに」
「龍斗が助けたのは間違ってないよ……でも、恨みを持たれるのは当然だよ」
「おかしいだろ。助けてくれって言ったのは、そもそもアイツだぞ!!それになんでもする、って、納得したのもアイツじゃないか!!」
「珍しく観点がズレてるよ。そうじゃないでしょ」
「だとすると何か?男女の違いっとでも言うのか?」
「ほら、ヤッパリ解ってるじゃない。女って言うのはね。救けて貰っている時は、それなりに、なんでも納得は出来るけど。それ以降はダメ。自分が売れてしまったら、自分の過去を清算したがるものなのよ」
「だからって……」
「ほら、又、忘れてるよ」
「何がだよ?」
肝心な事を完全に忘れている。
一体、どうしちゃったのよ龍斗?
こんなややこしい話だけに、動揺する気持ちは解らなくもないけど、今のアンタは抜け過ぎてるよ。
「あの子の性格よ。人にして貰う事が当たり前。恥をかかされるのが嫌い。それに私達が上手くいくのも嫌。全てが気に入らないのよ」
「ちょっと待て。アイツの性格の事については解らなくもないが、なんで俺達の事まで干渉してくるんだよ」
「簡単な事じゃない。繭は、アナタが好きなのよ。自分が困っている時に、唯一助けてくれたのは、アナタだけだったもん」
「そんな自分勝手で迷惑な話有るかよ!!」
「残念だけど、それは有るのよ。その話だって、私の実体験が語ってるじゃない。だから、消えて欲しいのは、アナタじゃなくて私。それは、恐らく、この世界でも同じ。繭はアナタじゃなくて私を狙う」
「じゃあ、どうすれば良いんだよ?今更、過去なんて精算出来ないぞ」
なんでこっちの龍斗は、こんなにモノを考えないの?
もっと出来るでしょうに!!
「私だって、そんなの解らないわよ!!……第一それが解っていたら、そう易々と殺されたりはしないわよ」
「あぁ、確かに、そうだな。ごめん……すまない」
「そんな反省は良いから。早く、どうするか考えなくっちゃね……私には、もぅあんまり時間がないの」
……時間が無い。
これは嘘じゃない。
体の占有権の時間を、誰かが決めた訳じゃないけど、恐らく、こんな都合の良い時間は、長くて今日1日。
短かったら、それこそ、今すぐに終わってもおかしくない。
だから、この場での甘えは許されない。
「う~ん……くっそ~!!こんなもん、どうすりゃ良いんだよ!!なんも浮かばねぇよ」
「カリカリしないで、そんなの意味無いから」
「そりゃあ、お前は、別の世界の話だから良いけど。俺は、そうはいかないんだぞ!!」
「ごっ、ごめん……そうだよね」
確かに、これは私の認識不足だ。
私にとっては終わった話でも。
この龍斗には、これから一生付き纏うかも知れない話。
時間がどうこう言う前に、もう少し彼の心境を考えるべきだった。
何やってんだろ私……ほんとダメだな。
「あっ、ごっ、ごめん。なっ、なに言ってんだよ俺。辛いのは、お前の方だよな。それに心配して貰ってるのに……ごめん。お前が謝る事じゃないよな」
「うぅん。気にしなくて良いよ。私が勝手に焦ってたのも事実だし」
「ごめん」
「うん。大丈夫」
今一番必要な事は、繭の対策を考える事もそうなんだけど、まず何より冷静になる事だ。
そうしないと、生産性も、意味もない、ただの馬鹿アイデアしか浮かばない。
お互い、こんな心境で、良いアイデアが浮かぶはずがない。
兎に角、冷静にさせなきゃ。
その為にも、一端この話を切ろう。
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