【完結】クライカコ(丁度、文庫本一冊位の文章量です♪)

お互いの意思が通じ合っていても、必ず上手く行くとは限らないのが【恋愛】
殴り書き書店
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残酷なエピローグ

公開日時: 2021年8月18日(水) 00:20
文字数:2,769

●前回のおさらい●

目の前で最愛の幼馴染である歩美を、嫉妬に狂った繭に殺され。

生きる希望を失った龍斗は、半狂乱に成った繭に背中を何度もナイフで刺されて半死状態に……


そして、その後。

 気が付いたのは、3日程過ぎた警察病院のベットの上だった。


俺は、歩美と共に死ぬ事も許されず。

神様とか言うサディストに『無駄な生』を与えられた。


なんでも、何回も生死の境を彷徨っていたらしいが、残念な事に『生きる事』を、無理矢理選択させられたらしい。


………だがホントに、それはいい迷惑だ。

………なんで、そんな残酷な真似をするんだろう?

殺してさえしてくれれば、もう歩美の事も、思い出さずに済んだのに……


この後、何度か警察に事情聴取などされたが、正直に話す以外なかった。


余りにも根掘り葉掘り聞かれたので、歩美の誕生日に『ソレ』とキスした事まで話した。


……とは言ったものの『ソレ』って、誰だったのかな?

なんでも、警察が言うには『ソレ』は、未だに捕まっていないらしいんだが……そんな話は、本当にどうでもいい。


俺にはもぉ、なにもないんだから。



俺は、あの日を境に、何事にも興味を持たなくなった。



***


 現在04月20日 PM03:50 音楽室


 高校に入学して、はや3週間。

仕事と、学業の両立に死ぬ思いをしながら、何とか遅れる事も無くこなしていた。


だが休日に成ると、相変わらず俺は、歩美の事を忘れられずに、未だに、毎週の墓参りを欠かしてはいない。


こんなもの、ただただ未練たらしいだけなのかも知れないが。

いつまで経ってもアイツの事が『好き』な気持ちが変らないんだから、こればっかりは仕方が無いと思うしかない。



そう言えば、関係無い話だが。

今日は金曜日だと言うのに、珍しく仕事がオフで時間が出来てしまった。


こう言う急な休みの日も、大体、歩美の実家に行く事にしているんだが。

こう、しょっちゅう墓参りに来られては相手方も迷惑だと思い、今日は歩美の墓参りは諦める事にした。



だからまぁ、不本意ではあるのだが。

たまには、学校生活を堪能するのも悪くないかもしれないと考え、軽くピアノ弾きに音楽室に行く事にした。


歩美が亡くなってからの、俺の唯一の趣味。

あいつが、俺のピアノの演奏が好きだったのもある。


それに無駄に生きてるだけの俺が、それ以外の事をするのは、なんだか歩美に悪い気がして、どうにも気が乗らない。


そんな事を思いながら、音楽室に到着したのだが。

残念な事に、音楽室は吹奏楽部に占拠されており、部員ですし詰め状態。


仕方が無いので、部長らしき人に『ピアノを弾いていいか?』と尋ねた所。


殊の外、意外なまでにアッサリ承諾を得る事が出来た。



歩美の為だけに、ピアノの演奏だけは欠かさず毎日弾いてはいるんだが……どうにも勝手が違う学校で弾く事には、少し気恥ずかしい。


『!!』


そんな風に、何気に鍵盤を叩いてみると。

ピアノには、恐ろしく癖の強いチュ-ニングが施されており、最初は妙に戸惑ってしまったので、有り得ないミスをしてしまいそうになる。


―――ははっ……矢張り、慣れない事はするもんじゃないな。



そんな俺に気付いたのか。

部長が、去年までピアノを弾いていた人の事を教えてくれた。


その人は『そう言うチューニングが使い易かった』と言っていた事を教えてくれた。


そして……



「別にチュ-ニングを弄ってもいいよ。今、部員でピアノを弾けるって言えるレベルの子はいないから」


とは言われたが。

このチューニングも慣れると、意外に使い易さも出て来たので、そのまま使う。


その後は、少し調子に乗り。

自分の世界に入って、世間で難曲と言われるモノを弾いていると……気が付いた時には、周りが演奏を辞めて、俺のピアノを聞いていてくれていた。


―――俺の演奏なんて気にしなくてもいいのに。


静まり返った音楽室には、ピアノの音だけが流れている様に思えた。



その時……他の教室から、綺麗なヴァイオリンの音が、かすかに俺の耳に届いた。


その音は、余りにも耳障りが良く。

俺のピアノの音はドンドンと吸い込まれる様に、ヴァイオリンに引っ張られて行った。


―――だれだ?


こんな演奏を出来る奴が、この学校に存在するのか?




そんな中、俺達の奇妙な関係の演奏が終わる。



もう少し弾いていたかったが。

これ以上、部員の皆さんにピアノを占拠して迷惑も掛けれないので、部長に挨拶をして出て行こうとしたら、不意に音楽室の扉が開いた。



『ガラッ!!』



「今、ピアノを演奏されていたのは、貴方ですか?」


そう言いながら、一人の少女が部室に俺を尋ねて入って来た。


『!!』



「なっ!!……あゆ……」


彼女の姿を目に入った瞬間、俺は動揺で言葉がしっかりと出ない。


………おかしい。


…………そんな筈は無い!!


…………なんでいるんだ?


…………あいつは…………



「あぁ西條さん。彼は1ーDの氷村龍斗君。今、ピアノを弾いていたのは彼だよ。そして、こちらは1ーAの西條育美さん」


何も言わずに硬直している俺に、部長は彼女に紹介してくれた。


矢張り……いや、本人な筈がないのは解っていたのだが……



「初めまして、西條と申します。氷村さんはピアノ……お上手なんですね」

「えっ?……あっ……まあ……」

「機会がありましたら、また、御一緒に演奏させて頂いて宜しいですか?」

「えっ?……アッ……まあ……」


ニッコリとほほ笑む彼女に対して、俺はしっかりとした返事が一向に出て来ない。


それ以前の問題として、思考回路が正常に機能しない。



「大丈夫ですか?」


余りの返答に不安に思ったのか、続けて声を掛けて来てくれた。



「はぁ、まぁ」

「私ったら、ごめんなさい。……余り、お話は得意じゃないみたいですね」

「いや、別に、そう言う訳じゃ無いんですけど……あっ、あの、西條さん1つだけ聞いても良いですか?」

「あっ、はい、なんなりと」


俺の行動に不信な点が有ったのか。

反応がイマイチだったが、そんな事など気にしていられない。


……この子には、どうしても聞かなければならない事がある。



「ごっ……御親戚に『井上歩美』って方は居られますか?」

「……井上歩美さんですか?多分、私の知っている範囲では居られませんけど。それが……何か?」

「いや、そうですか……変な事、急に聞いて、すいません」

「その方が何か?」

「いや、すいません。ホント、なんでもないんで気にしないで下さい」


彼女は、この後。

部活が続きがあるとかで『ペコリ』と挨拶をして出て行った。



そんな彼女の出て行く姿に、俺は釘付けになっていたが、部員の方々の視線で我に帰り。

部長に挨拶だけして、この場を後にした。



そんな事があった音楽室から出て行って、歩きながら、心の中で『信仰していない』神様を心底怨んだ。


……完全に諦めていたのに、なんだって言うんだ。


…………彼女が、歩美本人じゃない事も、十分に承知してるつもりだ。



……だけど。


……何で今頃になって『井上歩美』に似た『西條育美』と言う少女を、俺の目の前に現したのか?




……そんな残酷な真似をする神様の考える事は、俺には、全く解らないよ。




『クライカコ』氷村龍斗編、おしまい。



●後書き●


 こんな救いのない話を、最後まで読んで下さって有難うございました('ω')

設定段階からそうだったのですが、矢張り、予定に反する事なく、救いのない話に成ってしまいましたね。


そして終わり方も、敢えて、読者様の想像にかなり投げっ放しのまま、終わらせました。


勿論、こういう終わらせ方にしたのには理由がありまして。

読者の皆様が、今後、龍斗がどういう行動をとるのかを想像して欲しくて、こういう終わらせ方をしてみました。


今後の展開は、作者が決めるのではなく、読者様の想像にお任せしますと言う事です。


そして、こんな無茶な終わらせ方をしたにもかかわらず。

明日からは、懲りずに、この救いのない物語を【ヒロイン視点で書いていこう】と思いますので、またお付き合い頂けますと嬉しく思います。


明日から始まる『歩美編』に関しましては。

少し本編の内容が変わる感じなので、今回ほど救いがない事はないと思いますが。

矢張り、ダークな小説なので、グッドなエンディングに成る事はないと思いますので【閲覧注意】は継続と言う事で(笑)


ではでは、ご機会がありましたら、またお会いしましょう♪



             ―――殴り書き書店より。

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