【完結】クライカコ(丁度、文庫本一冊位の文章量です♪)

お互いの意思が通じ合っていても、必ず上手く行くとは限らないのが【恋愛】
殴り書き書店
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消え行く灯り

公開日時: 2021年8月17日(火) 00:20
文字数:2,499

●前回のおさらい●

歩美の救出に成功し、家路に付こうとした龍斗だったが。

不意に扉を開けた瞬間『ブスっ』っと言う、なにかが刺さる音と共に、歩美がその場に倒れていく。

「なっ!!」

「あはっ……あははっははっはっは……私を不幸にする女を、やっと殺せた。やっと殺せたんだ。死んじゃえ!!不幸を振り撒く悪魔めぇ!!アハハハ……」


繭が狂った様に笑いながら、その場ではしゃいでいる。

この嫉妬に狂った女は、俺達が部屋から出て来るのを身を潜めて待ち構えていたらしい。


コイツ……どこまで俺達を、自分のクダラナイ嫉妬に巻き込めば気が済むんだ。


俺は瞬時に、繭を思い切り蹴り飛ばす。


―――こんな事になるんだったら、コイツを殺しておけば良かった。



「グエッ……」


何かが、壁にぶつかって潰れた様な声がしたが、今の俺には何も聞こえていない。



「おい、歩美、歩美……」


身体を揺すって安否を確認しようとすると、手に何かべっとりしたモノが着いた。


俺の手は真っ赤に染まっている。


―――しかも、心臓にナイフが突き刺さっている事も確認出来る。

……どう考えても、これは致命傷だ。


それでも諦め切れずに、必死に揺する。

こんな事ぐらいで、歩美を諦められる筈がない。


やっと、やっと、俺の歩美が帰ってきたって言うのに……



「……龍斗?……龍斗なの?……ゴメンね。私……私達の子供……流れちゃった……」


微かに意識が戻る。


それと同時に、ナイフを刺されたショックが巻き起こした奇跡なのかは、わからないが。

本来のあるべき正気を取り戻し、彼女の口からは、そんな言葉が洩れた。



「だっ、大丈夫だ……おっ、お前が無事なら子供は、まっ、また作ればいい。……まっ、また一緒に作ろうな……お前が、お前いれば……」

「……もう……もうね、無理かも。……私、死んじゃうみたいだし。……ははっ、ごめんね。なんで私って、いつもこうなんだろ……」

「そっ、そんな事ない……そんな事……ない。大丈夫だから……それに、オマエのドン臭いのは、今に始まった事じゃないだろ。こんな程度のミスなら大丈夫だ。大丈夫だって」


彼女は喋ってはいるが、呼吸をするのも困難の様だ。



「うるさ……いわよ……でもねぇ……龍斗…………愉しかったよ……私……貴方に逢えて……幸せだった……」

「なに、言ってンだよ、オマエ?馬鹿じゃネェの?そんなもんなぁ。そんなもん。まだまだ、これからだろ!!一緒に思い出一杯作るんだろ!!」

「ははっ……そうだね。……そうだといいな……」


力なく笑う歩美の笑顔には、血色は無く、ドンドン血の気が引いているのが解る。



「なんだよ『そうだといいな』とか言うなよ……俺……お前が横に居ないと、ダメなの知ってるだろ!!だから、行っちゃダメだ。行かないでくれよ…………歩美ぃ~~~」

「大丈夫だよ、龍斗なら。……私……龍斗と出会えて……本当に良かったよ。……ゴメンね……」



そう言い残すと、彼女の全身から力が抜けて腕がすり落ちていく。



―――なにも動かなくなる。

体温も急激に下がって行く。



「おい?……なぁ?……なぁ?って……あゆ、歩美?……ははっ、嘘だろ。もぅ良いって。こんな時に、冗談が過ぎるんじゃないか?……なぁ……返事しろよ……なに黙ってンだよオマエ?いつもみたいに、言い返して来いよ。オマエが、言われっ放しなんて、おかしいだろ……なぁ……なぁって、なぁって言ってンだろ~~~!!起きろよ!!起きてくれよ!!」


何度、繰り返しても返事は無い。

何度、揺すっても動いてはくれない。

虚しく、歩美の体が揺れるだけで反応は無い。



―――歩美は……死んでしまった。



「あっ、あっ、あっ……うわああああああぁぁぁぁぁぁ~~~~~!!」


絶叫は、フロア-一杯に響き渡り。

宿泊していた客達が、ゾロゾロとなにかを言いながら出てくる。



―――もぅどうでもいい。



「な…きみ?な…が、あ……んだ?」


野次馬なのか、親切なのかは知らないが、1人の宿泊客が近付いて来て、何か言ってる様だが……


なにを言われているのか……解らない。


確認するが、誰かもわからない。


……お前、誰だよ?


もぉ良いから……ほっといてくれよ。



「ぐはっ!!」


俺に声を掛けて来た客は、真横で倒れ込んだみたいだ。


死んだ魚の様な目で、それを見るが興味が無い。



……そんな事、もぉどうでもいい。


俺の知った事じゃない。




「触らな……でよ。触…ない…よ。私の龍…に!!」


誰かがナイフを持って、そんな事を必死に言っているが……


コイツも……誰だか解らない。



……どうでもいい。


もぉちょっと静かに出来無いもんなのか?



「どいてくれませんか……邪魔なんですけど……」


俺は『それ』を押し退けて、歩美を抱きかかえて立ち上がる。



―――ここ、なんだか騒がしいな。


歩美と2人で、何処か静かな所に行こう……



「な……なんで?もぅ、私達を不幸にする女はいないのよ」

「…………死んだ?」

「そぅ!!死んだのよ、その馬鹿な女は!!私が殺してあげたのよ。……ねぇ、龍斗聞いてる?殺してあげたのよ、私が!!」


一生懸命『ソレ』は、何かを言ってるが、なんで、そんな事を言ってるのか解らない。







「……………………ダレ?アンタ?」


虚ろな目で、誰だか解らない『ソレ』を見ながら聞いてみた。



……興味は無い。


……邪魔。


……ホントに、もぉどうでもいい。


……道さえ開けてくれれば、何も文句は無い。


……どうでもいいけど。


……邪魔しないで欲しい。



「なっ、なんなのよぉ~~~?井上歩美を殺してあげたって言うのに、まだ、私に振り向いてくれないの?だったら、もういい!!アンタなんか、死んでしまえばいいんだ!!」



手に持ったナイフで、俺の背中を何度も刺して来た。



……痛みは、全く感じない。


それに『ソレ』が、なにをそんなに怒っているのかは知らないが、どうやら『ソレ』は親切にも、俺を殺してくれるらしい。

歩美を守れなかった間抜けな俺を殺してくれるらしい。


……『ありがとう。そうしてくれ』と心からそう思った。


そして意識が、だんだん無くなって来た。



……俺は、歩美と同じ所に行けるのかな?


なんてな。


俺は、アイツと違って、悪い事ばかりして来たから、同じ所にはイケナイかも知れないもしれないな。



……でも、例えそうであっても、この世に未練なんか、これっぽっちも無い。


……歩美のいない、この世になんかに。


―――興味無い。


……此処で俺の意識は、完全に消失した。

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