【最後通告です】
本作は『酷い悲恋』を書き綴った作品ですので。
『チョロインとの安い恋愛』や『無節操な主人公のハーレム物』をお求めの方は、ブラウザーバックしてください。
本当に救いのないお話ですし、子供な思考の方が読んでも面白い物ではありませんので。
【クライカコ 氷村龍斗の場合】
「…………ねぇ、ねぇってば?聞いてるの?龍斗は『……』との約束。ちゃんと憶えてるの?」
やけに柔らかいものの上に寝転がっていた俺は。
上の方から、何やら突然、怒った様な声が降って来て、閉じていた瞼を開き、ゆっくりと眼を覚ます。
こんな単純な行為だが、こんな事すら、何故だか無性に懐かしく感じる。
―――そう言えば最近、なにかと忙しかったしな。
この感覚は、日常にあって、此処最近では感じられなかった、ゆったりとした時間だ。
「んっ?あぁ勿論、憶えてるよ。『……』を(……)にするって話だろ。馬鹿だな、オマエは。そんなもん忘れる訳ないじゃないか」
「そっか」
「それにな。いつも、こんなに身近に居るのに、どうやったら忘れられるんだよ。けどまぁ……」
そうやって、相手に対して言葉はスラスラ出てくるものの。
目を開けてても尚、周りが暗いのかして。
俺には、彼女が、どんな表情で言葉を発しているのかすら、よく見えてはいない。
それに、もっと言えば、今、話している此の女の子が、実際は、誰なのかすら良く解っていない。
―――こいつは、一体、誰だ?
「『けどまぁ』ってナニよ?それに、その不思議そうな顔をしているのは、どういう意味なのよ?」
「別にぃ」
「……あっ、龍斗、アンタ、ひょっとして『お前じゃ無理だ』なんて思ってるんじゃないでしょうね?」
こうも相手に、アッサリと心理状態を読まれる程、俺は露骨に不思議そうな顔をしてしまっているのだろうか?
彼女の声には、先程にも増して怒気が混じっている。
―――この調子じゃあ、後で、酷い目に合うな。
「そうだな。まぁ全く思ってないと言えば、嘘になるな」
「アッ、アンタねぇ~~~ッ!!龍斗がなれるって言ったのに……」
「まぁ、そうだな・
「はっ、はぁ~ん、そうなんだ。そう言う事なんだ」
女は、なにかを理解したのか、完全に1人で自己完結している。
「おいおい、なに1人で納得してんだよ。おまえは?」
「なに?聞きたいの?」
「まぁ、そのままってのも気持ち悪いしな。……で、なんなんだよ?」
「龍斗ってさぁ。実は、私の事が好きなんでしょ?だから、私が(……)になったら、他の人に盗られると思って、そんな事を言ってるんじゃないの?」
表情が見えないんだが、見えない也に、彼女からの悪意が伝わって来る。
この女……かなり性悪だな。
―――でも、これって、やっぱり、どこかで感じた様な感覚なんだがな。
イマイチ思い出せないな。
「あぁそうなのか。なんだ、お前、俺の気持ちに気付いてたんだな。意外と鋭いんだな、オマエって」
「へっ?」
「じゃあ、しょうがないな。此処までバレてたんじゃ、白状するしかねぇな。俺は『……』の事が、昔から一番好きだよ」
「えっ?」
驚いた感じが伝わってくると同時に。
漸くだが、彼女の口の辺りだけが、うっすらと見え始めた。
あれ?やけに見覚えのある口許だな。
どうやら俺は、コイツを、よく知ってるらしい。
―――其れに、今の俺に、此れ程のタメ口を聞く奴は、早々は居ない筈。
……だとすれば、本当に、コイツは誰なんだ?
喉元までその答えが出掛かっているんだが、どうにもイマイチ思い出せない。
なんとも気持ちの悪い話だ。
「ふっ、ふ~ん。そっ、そうなんだ。でも、私には好きな人がいるから、無理。……残念でした~~~っ」
ウソか、真実かは知らないが。
俺の頭上で腕を組んで、俺の方から顔を横に逸らしている。
どうやらコイツは、動揺を隠せない生き物らしい。
耳まで真っ赤になっているのが解るし、体温上がってるのが伝わる。
―――いや、ちょっと待て、体温越しだと?
って!!
今、気付いたのだが。
この感触……どうやら俺は、彼女の太腿の上で寝転がっているらしい。
俗に言う『膝枕』ってやつだ。
でも、なんか懐かしいな、これ。
もしコイツがアイツだったら、いつも、これをするのを嫌がってたもんなぁ。
「そっか。お前に好きな奴がいるんだったら、諦めるしかないな。……仕方ない。じゃあ俺も『……』の事は、きっぱり諦めて、告白された子とでも付き合ってみるのも悪くないのかもな……あぁ~あ、実に残念だ」
「えっ?」
思い描いた通りの答えが帰って来た。
わかりやすいにも程がある。
なんて、ひねりがないんだ、コイツは……
ホント、単純馬鹿のままだな。
「だ・か・ら・な。お前が、俺の事をダメだって言うなら。諦めて、コクられた女の子との付き合いを考えるしかねぇって言ってるんだろ。もう俺に残された道は、それしかねぇんだからな」
「……ふっ、ふ~ん。そっ、そうなんだ。いるんだ。龍斗にコクる物好きなんて」
「おまえなぁ~。これでも馬鹿にしたもんじゃないんだぞ。学校でも、街中でも、結構、沢山、そう言う子がいたりするんだぞ。例えば、オマエの知ってる範囲ならだな。C組の阪城ユキだろ。E組の植田秋穂。F組の玖賀友里と橋田響子他数人。んで、そこに他校の女の子を合わせたら………………まぁ、数えただけでも20人位いるんじゃないか。オマエの言う、その物好きさんが」
からかってはいるが、嘘は付いていない。
自慢じゃないが、実際の処、間違いなく俺はモテる。
その辺の平凡なのに嘘臭くモテるだけのエロゲーの主人公とは、基本的にものが違う。
第一にして、エロゲ-の主人公みたいな平凡な奴がモテモテになる筈が無い。
―――何でもそうだけど、努力有りきなんだよな、何事も。
「……帰る!!」
『ゴンッ』
なんの前触れも無く、彼女は立ち上がり、俺は地面に転がり落とされる。
アブネェな、この女。
危うく、膝の上で一回転して、顔面から地面に落ちそうになった。
……ったく、相変わらず凶暴な奴だな。
―――んっ?凶暴?
「痛ッ~て~なぁ。……なんだよ急に!!事実なんだから仕方ないだろ」
「そぉね。じゃあ別に、彼氏でもない奴に『膝枕』をしてあげる必要性は無いんじゃないの?……私、なんかおかしい事した?」
顔は笑っている様な雰囲気を醸し出してはいるんだが、心から笑っているとは、とても思えない。
いや、これは確実に、怒っていると考えた方が良いんだろうな。
言葉の節々が、妙に棘々にしい。
こんな程度で怒るなんて、なんとも沸点の低い女だ。
―――あぁそうだ、少し思い出してきたぞ。
コイツは、かなり沸点の低い女だ。
けど、そこまで解っているのに、何故か答えが出ない。
なんだ?本当に、コイツは、一体、誰なんだ?
なにを、どうやっても、完全には思い出せきれない。
「おかしかないけどよぉ。なにも急に、立ち上がらなくても良いんじゃないか?」
兎に角、話を続ける事に専念する。
コイツが誰なのかを、完全に思い出すには、まだ時間が掛かりそうだ。
取り敢えず、成り行き的にでも反論をして、彼女をこの場に引き留めなければいけない。
ただ只管に、そんな気がした。
「そうね。じゃあ謝るわ。……謝れば良いんでしょ。……悪かったわね!!オトシテ、ゴメンナサイ!!」
そう吐き捨てる様な謝り方をするだけしたら、女は、すぐさま立ち去ろうとする。
「なっ…なんなんだ、その言い種?俺、なんか気に触る事でも、オマエに言ったか?それに、さっきの質問だって、元はと言えば、お前からして来たんじゃなかったっけ?」
「……別に良いでしょ。アンタには関係ないんだから……」
後ろを向いたまま、振り向かずに『……』は答える。
なら、さっきの怒ってるってのは訂正しよう。
コイツは、明らかに不機嫌を通り越して、キレているみたいだ。
理由が、今の段階で、俺自身にあるの重々承知している。
例えばなんだが。
女の子の前でコクられた女の話なんかしたら、その聞いた相手の気分が良い訳がない。
それが……膝枕をしてくれる程の女ならば、尚更だ。
だが、実際問題としては、なにも此処までキレなくても良いんじゃないかとも、思える。
・・・・・・
いや、ちょっと待て。
コレは、そんな問題じゃないぞ。
『!!』
此処で俺は、フッとある疑問が湧いた。
……って言うか。
大体、どちらかと言えば人付き合いの上手い俺が、女性相手に、こんな初歩的で、間抜けなミスなんてする筈が無い。
俺は、何時如何なる時でも、気を張って他人に気を使って来た。
そんな俺が、こんな凡ミスをするのだろうか?
―――ありえない。
それに考えてみれば。
女の子に対して『お前』なんて言ったのは、もう何年前の話なんだろう?
―――こいつは、本当に、誰なんだ?
俺が、こんなに気を許せる奴って?
いまいち思考が纏まらない。
そんな心境から『……』が、突然いなくなってしまう気がして、無性に恐ろしくなった。
「なっ、なぁ」
「……なによ?」
「……悪かったよ。ごめん」
この言葉に沈黙が訪れた。
「なんで龍斗が謝んのよ?……別に、何も悪い事して無いじゃない」
「そうかも知れないけどさぁ……」
「どうしたのよ?らしくないなぁ。こんなクダラナイ口喧嘩なんて、いつもの事じゃない。……それに、今日は、なんかやけに素直ね。なんか企んでるの?」
それでも、『……』は、一向に、こちらを振り向こうとはしない。
彼女との会話は、背中越しののまま続く。
俺は諭された子供みたいに『……』を後ろから見ているだけだった。
「……でも、ごめん」
「うぅ~ん、もぅしょうがないなぁ~。じゃあ、許してあげる」
『……』は、漸く、こちらに振り向いてくれた。
悪戯な笑顔を振りまきながら。
一瞬、コイツの笑顔を見て安心した。
……が俺は、コイツの笑顔に涙が伝っていた跡を見逃さなかった。
って事は、まだコイツは、俺の事を好きでいてくれたんだ。
そんな風に、何かが、俺の中で吹っ切れた。
そして、その瞬間には、自分を抑制する力は、俺には全くなかった。
思わず、思い切り『歩美』を抱き締めた。
そう……この女の名前は『井上歩美』
俺が、この世で、唯一心を許した幼馴染み。
そして……世界一愛した唯一の女。
「ちょ、ちょっと、なにしてるのよ……痛いよ……龍斗……」
「ごめん……ごめん。でも、今は『歩美』を感じていたい。もう離れたくないんだ」
「……もぅ……」
我ながら情けない。
仕種や口調で思い出せなかった事が!!
こんなにコイツの事が、誰よりも好きだったのに……
そんな俺が大好きな井上歩美は、我儘で、気が強く、それでいて感情的ですぐに泣く。
ある意味、何処にでもいる女。
だが、俺にとって、そんな彼女が、誰にも替える事の出来無い特別な存在。
―――しかし、何故だ?
何故、こんなに大好きな歩美を思い出せなかったのだろう?
「ねぇ。嬉しいんだけど……龍斗……ごめん。私、やっぱり、龍斗の気持ちは受け取れないよ」
彼女の口から、一番聞きたくない言葉が発せられた。
「俺じゃ……ダメなのか?」
「違う……違うの……そんな事じゃないの……」
「じゃあ、なんなんだよ?……俺は、ずぅ~と、歩美の事を……歩美だけの事を見てた……」
まるで懇願する様に、歩美に言葉を返した。
自分自身が、今まで生きて来た中で、一番みっともない姿の様に思えた。
だが、その情けない姿を晒してでも、今は、絶対に歩美を離したくはなかった。
いや寧ろ、離せる訳がなかった。
だが、そんな想いを他所に、彼女から返ってきた言葉は……
「それ……嘘だよね」
突然。
そう、突然、冷たく、全てを突き放す様な言葉が発せられた。
しかも、この言葉には一片の感情すら感じない。
「嘘じゃない!!俺は嘘なんて言ってない!!」
まだ俺は此の時、歩美の異変に気付かなかった。
「そうなんだ……じゃあ龍斗、聞くけど……」
それを歩美が言い終わったと同時に『ゾクッ』とした。
そして俺は、なにかしろ冷たいモノを背中に感じた。
まるで冷水を掛けられた様な感覚。
それでいて、ナニかが精神の奥底から這い上がって来る様な、嫌な感じ。
今の今迄、全く気が付かなかったが、いつのまにか歩美の腕は、俺の腰に巻き付いていた。
その力は、とても非力な女の子のモノではなく。
力強く、常人では、到底、引き剥がす事など出来ない程の力で。
「そんなに、私の事を見ていてくれたのに『なんで、私は死んだの、龍斗?』……ねぇ、なんで、あの時、私を助けてくれなかったの?……ねぇ……なんで?」
無機質な目で、俺に問う様に訴えかけて来る。
「!!」
返す言葉がない。
そして言いたい事を言うと、突然、彼女の力が抜けて行き。
腕からハラハラと岩が崩れて行く様に、彼女の姿は、みるみる崩壊して行く。
最後には、絡まっていた腕がボロっと下に落ちる。
あとは、何事も無かったの様に、彼女の体は一気に崩れ去るだけだった。
そして、もう此処には、彼女を型どっていた物はなにもない。
彼女の言葉すらも、もう聞こえる事はなかった。
……あるのは、遺灰の様になった砂が、俺の足下に固まっているだけ。
………そう、俺の愛した井上歩美は、もう3年も前に死んでいる。
俺が殺したのも同然に……………
最後までお付き合い下さり、誠にありがとうございましたぁ<(_ _)>
ははっ……早速、ヒロインが死んでる宣言をしていますね(笑)
因みにですが、この後も『ヒロインが生き返る』事もなければ『ご都合主義』なんてものも一切ございません。
本編では、ただ只管、この事実に至るまでの経緯を書き綴るのみです。
ただ、此処まで読んで下さった読者様にだけ、この物語の本質をお話しますと。
【死】と言う悲しい現実よりも、それまで【2人が必死に生きて来た事実】の方が大事だと思い、この物語を書いています。
勿論、物語である以上「ハッピーエンド」に越した事はないのですが。
全ての物語が「そう上手く行く訳ではない」っと言うのも知って欲しいですし。
現実的な話、どれだけ努力をして幸せに成っていても「些細な出来事が破滅を招く」っと言う事もありますしね(笑)
そんな救いのない話ですが。
良かったら、また遊びに来て下さいねぇ~~~(*'ω'*)ノ
読み終わったら、ポイントを付けましょう!