●前回のおさらい●
2人が結ばれた日から数か月。
突然、歩美からの呼び出しを受けて、深夜のファミレスへ。
そこで歩美の口から「赤ちゃんが出来た」と告げられ、驚く龍斗だったが。
龍斗は意を決して「産んで欲しい」と告げ、2人は幸せな日々を送る事に成る……筈だった。
……そんな昨晩の事を思い出しながら、有頂天のままニヤついてると、1通のメールを受信した。
何も考えず、浮かれた脳のまま携帯電話を開くと、そこには、繭ちゃんからのメ-ルが受信されていた。
『おいおい、早くも、昨日の話を聞きつけて、お祝メ-ルでもしてくれたのか?』
……などと、止む事の無い浮かれ頭は、物事を良い方にしか思考しないらしい。
そんな風に決め付けて携帯を開いてみると、思いも寄らない文面が書かれていた。
『今から、2人で逢えますか? 繭』
『??』
なんだか良く解らなかった。
確かに、5月の出来事以来、彼女との仕事上の付き合いは何度もある。
何人かの業界の偉いディレクターや、プロデューサーに、歩美の紹介がてら、彼女を売り込んだのも事実だ。
だからって訳じゃないだろうが。
此処最近では、歩美程と迄は言わないが、彼女も仕事が増えて忙しくなってる筈。
勿論、プライベ-トでも何度かは遊びにも行ったが、勿論、これは歩美を含む3人での事だ。
決して、2人で遊びに行った事など無い。
当然、そう言う肉体関係にもなる筈が無いし……勿論なるつもりも無い。
なのにも拘らず、この妙な文面。
兎に角、何かが引っ掛る。
どう考えてみても、この時期に、この文面はおかしいだろ。
まぁ思い過ごしなら良いんだが……
そんな風に不安になった俺は、繭ちゃんにメ-ルを返信する前に、歩美の携帯電話に掛けてはみたが。
これがまたおかしな事に、歩美が一向に電話に出る気配すらない。
「あれ?おかしいな。確かアイツ、今日はオフの筈なんだけどな。オフの日に、アイツが、俺からの電話に出ない筈ないんだけど……」
重なってくる不確定要素は、俺の神経を苛立たせていく。
とは言え。
別に繭ちゃんが俺に用事があるだけで、なんて事は無い筈なのに、今回だけは、やけに不安が過る。
このまま彼女に『何の用事か』を確認する為に電話をしようと思ったが、先に歩美の家に電話してみた。
―――どうも俺は、気になりだすと止まらないらしい。
プルルルルル……
プルルルルル……ガチャ!!
「はいはい。もしもし、井上ですけど~」
おばさんが思っていたよりも早く、たった2コールですぐに出てくれた。
この行為に、少しだけだが俺に安心感を齎してくれる。
これで誰も出なかったら、それこそ発狂ものだ。
「さっ、昨日は、どうも。龍斗ですけど……」
昨日の出来事が有るだけに、なんか気恥ずかしい。
「あぁ、龍斗君。昨日は、ありがとうね。これからも歩美の事しっかり、よろしくね。あの子、あれで居て、そそっかしいから……」
「ハハッ、大丈夫です。俺が、しっかり監視しておきますよ。それにおばちゃん、歩美の事は、勿論、大事にします」
「龍斗君も尻に敷かれ無い様にね」
―――笑えない。
もう既に敷かれてるんだから……
「ハハハ……(↓泣)ところで、今日、歩美、家に居ますか?」
「あっ、歩美?歩美なら、昨日、繭ちゃんから電話があって、嬉しそうに出掛けて行ったわよ」
「えっ?」
『!!』
……おかしい。
明らかに、これはおかしいぞ。
歩美が、繭ちゃんの所に行ってるなら、繭ちゃんからの、この『2人で逢おう』なんて文を打ってくるのは変だ。
どう考えてもおかしいし、そんな事有り得ないだろ。
第一、なんで歩美が居るのに2人なんだ?
つい、眉間に皺を寄せて考えてしまった。
「ちょっと龍斗君、どうしたの?どうかしたの?」
「あっ、すっ、すいません。なんでもないです。じゃあ、取り敢えず、繭ちゃんに電話してみます」
「そうね。多分、帰って来ないって事は、あの子の家に、まだお邪魔してると思うわよ」
「ほんとに、すいません。では改めて、今度は、父と寄せて頂きます」
「楽しみにしてるわね……フフッ、じゃあ」
そう言って、おばちゃんとの電話を切った。
―――しかしこれは、一体どう言う事だ?
さっぱり解らない。
2人が、俺を驚かせる為だけに、こんな手の込んだサプライズしているとも、イマイチ考えられない。
―――ナンダ?この言い様の無い気持ちの悪い違和感は?
考えてみても、一向に埒が開かないので。
取り敢えず、この話の中心人物になっている繭ちゃんに電話をしてみる。
トゥルルルル……
トゥルルルル……
トゥルルルル……
トゥルルルル……ガチャ!!
「もしもし、白石ですけど……龍斗君?」
「うん。俺だけど……繭ちゃん……」
「……帝王ホテル703号室で待ってるから来てね……絶対に来てね…………後悔しない為にも」
「へっ?はぁ?」
ガチャ!!
―――切られた。
一方的に話をするだけしたら、コッチの意向も聞かずに切りやがった。
なんだ?何が起きてるんだ一体?
全く解らない。
癇に障る彼女の態度を抑えて、もう1度電話を掛けてみるが、予想に反する事無く一切電話にはでない。
それどころか『お掛けになった電話番号は……』と言うアナウンスまで流れてくる始末。
着信拒否……意味が解らない。
こうなったら、兎に角、本人に逢って、確信を追求するしか無い様だ。
何かのイタズラなら良いんだが……何故だか、全然そんな気になれない。
これは、どうやら思考を巡らせている場合じゃないようだ。
―――これはもぉ、直接、繭ちゃんに逢って、問い質す必要が有りそうだ。
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