●前回のおさらい●
那美の話に決着をつける為に、学校をサボって、龍斗が昔行き付けにしていた怪しい喫茶店にやって来た歩美。
だがそこでは、龍斗が荒れていた時代の連れに囲まれ。
龍斗は、その昔の仲間達と盛り上がってしまう。
それを見ていた歩美は空気を読んで、その場を見守るが、それと同時に那美のプレゼントの件も話せずにいた。
それを見かねたこの店の店主である、オカマのミノルママに声を掛けられる。
「歩美ちゃん。コッチに座って待ってたら?もうああなったら、少しの間、話が続くと想うし……あっ、そうだ。喉渇いてない?飲み物位なら、ママが奢ってあげるわよ」
「あっ、はい。ありがとうございます」
正直、かなり喉は渇いていた。
店内のタバコや、お酒の臭いがそうさせているのだろう。
私は、椅子にチョコンと座ると、ママは『オレンジジュース』を出してくれた。
「あっ、すみません。本当に有難うございます」
「ふふっ、ほんと可愛い子ねぇ」
「そっ、そんな事無いです」
ミノルママ、そんな私を見ながらクスクス笑っている。
何か、私、変な事したのかな?
「それで、歩美ちゃんはタッチャンの彼女なの?」
「ぷっ!!……違っ、違います」
「あれ?そうなの?ママは、てっきりそうなのかと思った」
「私なんか……相手にされてませんよ。龍斗は人が良いだけなので、こうやって私に付き合ってくれてるだけだろうし。それにアイツ、ワザワザ私なんかを選ばなくてもモテますしね。それこそ、選り取り見取りなんじゃないですか」
「そうねぇ。そう言われれば、昔からタッチャンの周りって、男女問わず人が集まるわね」
「でしょ。……だから私は、アイツの言った通り『幼馴染』で良いんです」
「まぁ、タッチャンは良い男だからねぇ。私だって、体が女なら抱かれたいと思うわぁ」
ミノルママは、何所をどう見ても男だけど、心は女なのかもしれないなぁ。
だってさ、龍斗を見る目が。
完全に、乙女モードに入った女の子みたいな目をしてるんだもん。
「……」
その後も続けて、ミノルママと話をしようと思ったんだけど。
私には、その会話の糸口が見つからず、ただ沈黙と退屈な時間を、龍斗を見ながら過ごしていた。
だって……私、まだ中学生だし、大人の人に、何を話したら良いかなんて解んないんだもん。
「ねぇ、歩美ちゃん。ひょっとして退屈してるんじゃない?」
「いえっ、そんな事は無いですよ」
「ふふっ、歩美ちゃんって隠し事出来無いって、人からよく言われない?」
「何で、そんな事が解るんですか?」
「そりゃあ、こんな商売してればね。……それに歩美ちゃんは、直ぐに顔に出るみたいだしね」
「……すみません。正直言って、少し退屈してます」
「ふふっ、ほんと素直で可愛い子ね。……じゃあママが、少し歩美ちゃんに自信を持たせてあげようかしら」
「自信……ですか?」
退屈をしていた私は。
後先考えず、言われるがまま、ミノルママに付いて奥の部屋に入った。
3月7日 AM10:38 喫茶ミノルちゃん
「まいった、まいった。やぁ~~~っと開放されたよ」
「ふふっ、みんな、タッチャンの事が好きだからねぇ」
「はぁ……まぁ有り難い事なんだけどね。モノには限度ってもんがあるでしょうに」
「まぁまぁ、そう言わずにね。みんな、久しぶりに逢って懐かしかったんでしょうし」
「ハハッ……でも、流石にさぁ、疲れるよ」
「文句言わないの」
「そうだね」
そう言って龍斗は、私が飲んでいた『オレンジジュース』に口をつけて飲んだ。
ちょ……ちょっと、それって『間接キス』なんじゃないの?
私は恥ずかしくなって、自分の唇を意味も無く確認した。
「ところでさぁ。歩美は何所行ったの?……ひょっとして怒って帰った?」
「呆れるわね。なに言ってんのよ。ず~っと、タッチャンの隣に居るじゃない」
「へっ?」
龍斗の視線が、こちらに向く。
そして私の姿を見た龍斗は、何故かボケッとしているだけで、反応がイマイチ無い。
―――やっぱり、こんな真似は止めとけば良かったかな?
私は先程、暇を持て余したのを良い事に、ママにメイクをして貰っていた。
服も、それに合わせてドレスに着替えさせられた。
今の私は、胸元がガッツリ開いた、水商売のおネェさんが着ている様なドレスを着ている。
それなのにも拘らず、龍斗は無反応な訳でしょ。
やっぱり止めれば良かったかな?
「……歩美?」
私はコクッと頷くだけで、それ以上の反応は出来ない。
だってさ、私だって女の子な訳でしょ。
一度位、テレビで見た様な綺麗なドレスを着てみたいじゃない。
「……変かな?……やっぱ変だよね」
「……」
「……なっ、なんか言ってよ。ほら、『何やってんだオマエ?』とか『オマエ正気かよ?そんなの全然似合わネェよ』とかでもいいからさ」
「……いや、まぁそのさぁ、なんて言うのかさぁ……オマエ……」
「……なっ、なに?」
私は溜めを作る龍斗に、何か期待してるんだろうか?
イヤ、間違いなく期待してる。
万が一にも、褒めてくれるんじゃないかな……なんて秘かに思ってたりする。
「おっ、思ってた以上に……」
「思ってた以上に?」
「胸……でかいな」
「へっ?むっ、胸?……胸。ってか、オマエは一回死ネェ~~~!!」
『べコン!!』
「グハッ!!」
なにを神妙な顔をして懸命に見てるのかと思えば。
そんなところばっかり集中して見てたのか、このエロガキだけは!!
でも、まぁ別に嫌な訳じゃないんだよ。
龍斗が、私の胸が好きなのが解っただけでも。
今回、こんな格好をしただけの価値はあったんだろうしね。
でもさぁ。
もうちょっと位、違う部分も褒めてくれても良いのに、よりにもよって、胸だけとは……馬鹿じゃないの!!
「もぅ良いよ。それより、さっさと話、片付けさせてよ」
「今の話って、お前が勝手にしたんだろうが」
「うるさい!!」
「ヒュウ~ヒュウ~、タッチャン、ダセェ~」
「うるさいよ。大きなお世話だ」
ゼンちゃんと言われる人からの、からかいに対して反論する龍斗を、強引に奥のボックス席に連れて行く。
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