続きだよ(笑)
2004年05月01日 PM11:13 井上邸
龍斗がお母さんの下着を見てブッ倒れた事に対しては、みんな(私を除く)完全に無視して宴は繰り広げられた。
最初の内は、妥協すれば私の誕生会って言っても問題は無かったんだけど。
ある時間を境に、酔っ払ったお父さんを含むオジサン連中が、セクハラの嵐を始めた。
危険を察知した私は早々に逃げたので、大した被害にはあってないんだけど、繭ちゃんと、お母さんは、かなり可哀想だった。
別にオジさん連中の誰かが。
お母さんや、繭ちゃんの胸を揉んだりする訳じゃないんだけど。
矢鱈とベタベタ引っ付いて、お酌とかをさせている。
そんな光景は子供の私にとって、この程度でもセクハラに見える。
子供ながらに『酔っ払いの相手は疲れるんだなぁ』っとか思いながらも台所で片付けをする。
その間に、フッと気付いた時には、気絶から復帰したのか龍斗の姿が無くなっていた。
不意に自分の行為が恥ずかしくなって『帰ったのかな?』とも思ったんだけど。
私に、まだ一言もお祝いを言っていないアイツが、なにも言わず帰る様には思えない。
だから、この家のどこかには居る筈だ。
みんなが呑んでいるリビングを、目だけでキョロキョロと捜索してみたが、残念な事に、一向に、その姿が見つける事は出来なかった。
―――だとすると……あぁ、多分タバコだな。
アイツは、法律で禁じられている未成年の喫煙を。
中学生のくせにも関わらず、生意気にも平気な顔をして堂々とタバコを吸う。
本人に言わせれば『ストレス解消』だそうだが。
切れたらイライラする物が、私には『ストレス解消』になってるとは思えない。
しかも、あの独特の臭いが私は嫌いだ。
出来れば辞めて欲しいんだけど。
なんか、そんな事をイチイチ言うのも彼女として格好が悪いので、私は言わない。
っと、まぁそんな感じだから。
多分、その辺を気遣って。
私に煙がいかない様に、恐らくは二階のベランダかなにかで、タバコを吸ってるんだろう。
―――ハァ~、片付け終わったら見に行こ。
***
粗方の片付けが終わったのは、あれから10分程してから。
気付けば、叔父さん連中は、ソファーでゴロ寝し始めていた。
お母さんは部屋に戻ったのか姿が無い。
なんか取り残された気分では有るんだけど。
最後の片付けとばかりに、テーブルの上の物を全て片付ける。
―――あれ?そう言えば繭ちゃんも居ないなぁ?トイレかなぁ?
まぁ良いや、取り敢えず片付けよ。
最初はそうやって、まずは後片付けするつもりでいたんだけど。
何気に2人が居ない事が、妙に気になった私は、台所から洗ったばかりの灰皿を持って2階へ行く事にした。
『トントン』っと、上がり慣れた階段を登り終えると、正面にガラス張りのベランダが見える。
そこには龍斗の鼻血ブーと、繭ちゃんが、なにやら神妙な顔をして話込んでいた。
きっと、あの様子から言って、繭ちゃんが、なにか相談事でもしてるんだろう。
とても私が入って行く様な雰囲気じゃなかったから、聞き耳を立てて、その場で待機する。
「……事実だし」
「……嘘言っても仕方ないと思ったんで……」
最初の方は、私とベランダまでの距離の関係で何を話しているのか、やや聞き取りにくかったんだけど。
徐々に夜の静寂の中、2人の声が通り始めた。
「じゃあ、酷い事を言った罪滅ぼし……してくれるかな?」
「……俺に出来る事なら」
「繭と、あゆちゃんて、何が違うんだろ……それ、教えてくれるかな?」
「なんだ、そんな事でいいんですか?」
龍斗は真剣な顔をしながら、何かを思案している。
あの顔をするって事は、言葉を選んでるな。
それに繭ちゃんの顔をじっと見てる。
「別に、大した違いなんか無いよ」
「えっ?じゃあ、どうしてぇ~?」
「要は、運が有るか、無いかの差じゃないかな。これは大きいよ」
「私には無いのかなぁ~?」
「悪いけど、全く無いね」
えっ?
なんで、そんな酷い言い方をするの?
しかもアイツったら。
偉そうにタバコを吹かしながら、そんな事を言ってるんだよ。
ちょっとアンタ何様よ!!
繭ちゃんは、私の友達なんだよ!!
そんな良い方しなくても良いんじゃない!!
「じゃあ、私、もぅ何をやってもダメなのかなぁ?」
「多分ね。十中八九無理だろうね」
「何か方法無いのかなぁ?ウチの家、お父さんが事業に失敗して、借金だらけなの……」
「ふ~ん、そうなんだ。……っで、だからなに?繭さんの家が借金だらけなのは同情するけど、それって、俺とは何も関係ない話だろ。それに、俺には繭さんを助ける義理は無いな」
「でも、なにか助言ぐらいしてくれても」
「イヤだね。俺は、歩美の事で手一杯なの。悪いけど繭さんに構ってる暇は無い」
龍斗は取り付く島も無い言い方で、繭ちゃんを突き放す。
繭ちゃんは、こんな事を言われた事が無い筈だから、今にも泣き崩れそうな勢いだ。
でも、なんで、アイツがそんな事まで言うんだろ?
龍斗は仕事に関しては厳しい面は有るけど、頼ってきた人を足蹴にする様な奴じゃない。
なのに、なんで?
「なぁ」
「なっ、なに?」
「別に、俺も鬼じゃない。なんでも言う事を聞いてくれるんだったら、少しぐらい考えても良いよ」
「ほんと」
「あぁ?『ホント』ってなんだよ。そこは『本当ですか?』だろ」
「ごめんなさ……」
「『ごめんなさい』じゃなくて『すみません』じゃないのか?もぅちょっとさぁ、自分の立場ってもんを弁えて喋ってくんねぇかなぁ、面倒くせぇ。……言っとくけど、俺は、別に辞めても良いんだぜ」
「ごめ……すみません」
「ハッ、なんだやれば出来るじゃん。じゃあさぁ、明日までに、その髪型なんとかしといてくれる?ダセェんだよね。話にもならない」
女の子の髪を変えろって……
確かに、今時の女の子は、昔と女の子と違って、髪の毛に、そこまでの拘りが有る訳ではない。
寧ろ、切ったり、貼ったりは日常。
だからと言って、単純に、誰かが『変えろ』って言われたからって、直ぐに変えれるものでもないのも事実。
前もって、ある程度研究した上で、似合う、似合わないを判断するものだ。
それをアイツは!!
私は見てるのが胸糞悪くなってきたので、一言言ってやろうと思った。
「……解りました」
でも、繭ちゃんは、龍斗の難題に答えた。
それも明確に『ハイ』と言う1つ返事で……
この時点で、私は口を挟めない。
彼女が、それを認めてしまったのだから、口出しするのはおかしい。
腑に落ちないけど、再び、その場に身を潜める。
「本当だな。絶対だぞ。約束したからな」
「はい……それで、あのっ、私を助けて戴けるんですか?」
「まぁ、気が向いたらな」
「……有難うございます」
「じゃあ、そう言う訳だから、早く家に帰ってくんねぇかな?歩美との時間を邪魔されたくないんでね」
「そうですね。では、これで帰らせてもらいます。有難うございました。失礼します」
そう言った繭ちゃんに、龍斗はポケットから1万円札を出して渡した。
「あの……これは?」
「もぅ終電終わってるだろ。これからは、そう言った『時間管理』も自分でシッカリしなくちゃな。まさか此処から歩いて家に帰るつもりだったの?それ、無理だから。それでタクシーで帰りなよ。俺の我儘で帰って貰うんだからさ」
「ありがとう」
「気にしなくて良いよ」
ニコッと笑う龍斗は、いつもの優しい龍斗だ。
なら、さっきのアレは、なんだったんだろ?
まるで『飴と鞭』を使い分けてる様だ。
この後、繭ちゃんは用事が有るとか言って帰った。
私は、何か腑に落ちない感じだけが残った。
それにベランダからタバコを吸って戻って来た龍斗は。
いつも通り、馬鹿な事を言ったり、おかしな話をしてくれたりした。
それにいつも通り、私を大事にしてくれている。
だから余計に解らない。
繭ちゃんには、あんな酷い態度をした所なのにも関わらず、私には、何事も無かった様に接する。
繭ちゃんは、なにか龍斗の癪に障る事でもしたんだろうか?
でも、さっきの会話の中には、そんな感じは何も無かった。
本当に、一体、何が起こってるんだろうか?
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