【完結】クライカコ(丁度、文庫本一冊位の文章量です♪)

お互いの意思が通じ合っていても、必ず上手く行くとは限らないのが【恋愛】
殴り書き書店
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繭の相談事

公開日時: 2021年9月24日(金) 00:20
文字数:3,230

続きだよ(笑)

 2004年05月01日 PM11:13 井上邸


 龍斗がお母さんの下着を見てブッ倒れた事に対しては、みんな(私を除く)完全に無視して宴は繰り広げられた。


最初の内は、妥協すれば私の誕生会って言っても問題は無かったんだけど。

ある時間を境に、酔っ払ったお父さんを含むオジサン連中が、セクハラの嵐を始めた。


危険を察知した私は早々に逃げたので、大した被害にはあってないんだけど、繭ちゃんと、お母さんは、かなり可哀想だった。


別にオジさん連中の誰かが。

お母さんや、繭ちゃんの胸を揉んだりする訳じゃないんだけど。


矢鱈とベタベタ引っ付いて、お酌とかをさせている。


そんな光景は子供の私にとって、この程度でもセクハラに見える。

子供ながらに『酔っ払いの相手は疲れるんだなぁ』っとか思いながらも台所で片付けをする。


その間に、フッと気付いた時には、気絶から復帰したのか龍斗の姿が無くなっていた。


不意に自分の行為が恥ずかしくなって『帰ったのかな?』とも思ったんだけど。

私に、まだ一言もお祝いを言っていないアイツが、なにも言わず帰る様には思えない。


だから、この家のどこかには居る筈だ。


みんなが呑んでいるリビングを、目だけでキョロキョロと捜索してみたが、残念な事に、一向に、その姿が見つける事は出来なかった。



―――だとすると……あぁ、多分タバコだな。


アイツは、法律で禁じられている未成年の喫煙を。

中学生のくせにも関わらず、生意気にも平気な顔をして堂々とタバコを吸う。


本人に言わせれば『ストレス解消』だそうだが。

切れたらイライラする物が、私には『ストレス解消』になってるとは思えない。


しかも、あの独特の臭いが私は嫌いだ。


出来れば辞めて欲しいんだけど。

なんか、そんな事をイチイチ言うのも彼女として格好が悪いので、私は言わない。


っと、まぁそんな感じだから。

多分、その辺を気遣って。

私に煙がいかない様に、恐らくは二階のベランダかなにかで、タバコを吸ってるんだろう。



―――ハァ~、片付け終わったら見に行こ。


***


 粗方の片付けが終わったのは、あれから10分程してから。


気付けば、叔父さん連中は、ソファーでゴロ寝し始めていた。


お母さんは部屋に戻ったのか姿が無い。


なんか取り残された気分では有るんだけど。

最後の片付けとばかりに、テーブルの上の物を全て片付ける。



―――あれ?そう言えば繭ちゃんも居ないなぁ?トイレかなぁ?


まぁ良いや、取り敢えず片付けよ。


最初はそうやって、まずは後片付けするつもりでいたんだけど。

何気に2人が居ない事が、妙に気になった私は、台所から洗ったばかりの灰皿を持って2階へ行く事にした。


『トントン』っと、上がり慣れた階段を登り終えると、正面にガラス張りのベランダが見える。


そこには龍斗の鼻血ブーと、繭ちゃんが、なにやら神妙な顔をして話込んでいた。


きっと、あの様子から言って、繭ちゃんが、なにか相談事でもしてるんだろう。


とても私が入って行く様な雰囲気じゃなかったから、聞き耳を立てて、その場で待機する。



「……事実だし」

「……嘘言っても仕方ないと思ったんで……」


最初の方は、私とベランダまでの距離の関係で何を話しているのか、やや聞き取りにくかったんだけど。


徐々に夜の静寂の中、2人の声が通り始めた。



「じゃあ、酷い事を言った罪滅ぼし……してくれるかな?」

「……俺に出来る事なら」

「繭と、あゆちゃんて、何が違うんだろ……それ、教えてくれるかな?」

「なんだ、そんな事でいいんですか?」


龍斗は真剣な顔をしながら、何かを思案している。


あの顔をするって事は、言葉を選んでるな。


それに繭ちゃんの顔をじっと見てる。



「別に、大した違いなんか無いよ」

「えっ?じゃあ、どうしてぇ~?」

「要は、運が有るか、無いかの差じゃないかな。これは大きいよ」

「私には無いのかなぁ~?」

「悪いけど、全く無いね」


えっ?


なんで、そんな酷い言い方をするの?


しかもアイツったら。

偉そうにタバコを吹かしながら、そんな事を言ってるんだよ。


ちょっとアンタ何様よ!!

繭ちゃんは、私の友達なんだよ!!


そんな良い方しなくても良いんじゃない!!



「じゃあ、私、もぅ何をやってもダメなのかなぁ?」

「多分ね。十中八九無理だろうね」

「何か方法無いのかなぁ?ウチの家、お父さんが事業に失敗して、借金だらけなの……」

「ふ~ん、そうなんだ。……っで、だからなに?繭さんの家が借金だらけなのは同情するけど、それって、俺とは何も関係ない話だろ。それに、俺には繭さんを助ける義理は無いな」

「でも、なにか助言ぐらいしてくれても」

「イヤだね。俺は、歩美の事で手一杯なの。悪いけど繭さんに構ってる暇は無い」


龍斗は取り付く島も無い言い方で、繭ちゃんを突き放す。


繭ちゃんは、こんな事を言われた事が無い筈だから、今にも泣き崩れそうな勢いだ。


でも、なんで、アイツがそんな事まで言うんだろ?

龍斗は仕事に関しては厳しい面は有るけど、頼ってきた人を足蹴にする様な奴じゃない。


なのに、なんで?



「なぁ」

「なっ、なに?」

「別に、俺も鬼じゃない。なんでも言う事を聞いてくれるんだったら、少しぐらい考えても良いよ」

「ほんと」

「あぁ?『ホント』ってなんだよ。そこは『本当ですか?』だろ」

「ごめんなさ……」

「『ごめんなさい』じゃなくて『すみません』じゃないのか?もぅちょっとさぁ、自分の立場ってもんを弁えて喋ってくんねぇかなぁ、面倒くせぇ。……言っとくけど、俺は、別に辞めても良いんだぜ」

「ごめ……すみません」

「ハッ、なんだやれば出来るじゃん。じゃあさぁ、明日までに、その髪型なんとかしといてくれる?ダセェんだよね。話にもならない」


女の子の髪を変えろって……


確かに、今時の女の子は、昔と女の子と違って、髪の毛に、そこまでの拘りが有る訳ではない。


寧ろ、切ったり、貼ったりは日常。


だからと言って、単純に、誰かが『変えろ』って言われたからって、直ぐに変えれるものでもないのも事実。


前もって、ある程度研究した上で、似合う、似合わないを判断するものだ。



それをアイツは!!


私は見てるのが胸糞悪くなってきたので、一言言ってやろうと思った。



「……解りました」


でも、繭ちゃんは、龍斗の難題に答えた。


それも明確に『ハイ』と言う1つ返事で……


この時点で、私は口を挟めない。

彼女が、それを認めてしまったのだから、口出しするのはおかしい。


腑に落ちないけど、再び、その場に身を潜める。



「本当だな。絶対だぞ。約束したからな」

「はい……それで、あのっ、私を助けて戴けるんですか?」

「まぁ、気が向いたらな」

「……有難うございます」

「じゃあ、そう言う訳だから、早く家に帰ってくんねぇかな?歩美との時間を邪魔されたくないんでね」

「そうですね。では、これで帰らせてもらいます。有難うございました。失礼します」


そう言った繭ちゃんに、龍斗はポケットから1万円札を出して渡した。



「あの……これは?」

「もぅ終電終わってるだろ。これからは、そう言った『時間管理』も自分でシッカリしなくちゃな。まさか此処から歩いて家に帰るつもりだったの?それ、無理だから。それでタクシーで帰りなよ。俺の我儘で帰って貰うんだからさ」

「ありがとう」

「気にしなくて良いよ」


ニコッと笑う龍斗は、いつもの優しい龍斗だ。


なら、さっきのアレは、なんだったんだろ?


まるで『飴と鞭』を使い分けてる様だ。



この後、繭ちゃんは用事が有るとか言って帰った。


私は、何か腑に落ちない感じだけが残った。



それにベランダからタバコを吸って戻って来た龍斗は。

いつも通り、馬鹿な事を言ったり、おかしな話をしてくれたりした。


それにいつも通り、私を大事にしてくれている。



だから余計に解らない。


繭ちゃんには、あんな酷い態度をした所なのにも関わらず、私には、何事も無かった様に接する。


繭ちゃんは、なにか龍斗の癪に障る事でもしたんだろうか?



でも、さっきの会話の中には、そんな感じは何も無かった。


本当に、一体、何が起こってるんだろうか?


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