【完結】クライカコ(丁度、文庫本一冊位の文章量です♪)

お互いの意思が通じ合っていても、必ず上手く行くとは限らないのが【恋愛】
殴り書き書店
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恋愛因果律

公開日時: 2021年9月14日(火) 00:20
文字数:5,105

●前回のおさらい●

龍斗と付き合う前に、自分は良い事をしてると思いながらしたお節介が、龍斗の事が本気で好きな那美を傷付け。

彼女を苛めの主犯格にまでしてしまった。


そして、そのしっぺ返しとして『那美からは、ほぼ絶縁を言い渡される結果』になってしまう。

 薄暗くなった帰り道は1人。


いつもなら、奈々と那美と3人で、ありふれた話で盛りあったり、相談を聞いてくれたりする。


けど、今日は、そんな日常すら味わう事が出来ない。

此処には、そんな仲良しな彼女達はいないのだから……。


そして、私が何か困った事があった時は、何を置いても、真っ先に相談に乗ってくれる龍斗も、今日は居ない。


今日は、誰1人として、私の話を聞いてくれる人はいないし、話す相手もいない。

どう足掻いても、今日の私は1人ぼっちだ。


家路につきながら、そんなイヤなまでの孤独感に苛まれる。


でも、きっとそれは、自分が招いた事態……誰にも、何の関係もない話。


けど……自分の犯した罪を、少しでも軽減したい私は、卑怯にも、必死に、そこに逃げ込もうとしている。


そんな自分に嫌気を挿しながら、トボトボと歩いて帰る。


***


 そんな折、気が付くと龍斗の家の前に立っていた。


見上げてみると、アイツの部屋の電気が灯っている。



「アイツ、帰ってたんだ……」


確認すると、衝動的にインターホンを押そうとしている自分が居た。


『ハッ』っと我に返るものの、何度もボタンに手をかけそうになる。

……が、心に蟠りが有るのか。

それとも、自分のちっぽけなプライドか、結局、ボタンを一度も押せずに、ただ立ち尽くした。


その間にも、チラチラと、何度もアイツの部屋を見る。


私は、この期に及んで、私がインターホンを押さなくても、アイツが、突然出て来て『どうしたんだよ歩美?』と声を掛けてくれるのを期待している。


どこまでも卑怯な女だ。


そうして貰えば、気兼ねなく話せるから。

無駄と解っていても、そんな仄かな期待をしてるんだろう。


けど、アイツは、私のそんな人間的にセコイ心理を読んでいるのか、家から出て来てくれる気配はない。


もう1度だけ、しつこく期待して龍斗の部屋を見る。


私は、まだ諦めてないらしい……どこまでも、セコイ人間だ。



「ははっ、無理……だよね。やっぱ」


そんな自分の小ささに、ホトホト嫌気がさす。



「帰ろ……」


言葉では、そう言いながら、進む足は亀ぐらい遅い。


まだこの時点でも未練がましく、何度もチラチラと振り返りながら帰路に着いた。


***


「ただい……ま」


自分の感情を隠せない私は。

誰にでも解る位、沈んだ声を出して玄関の扉をくぐった。



「お帰り……あれ、どうしたの、その顔?歩美なんかあった?」

「うぅん、大丈夫。なんにもないよ」

「そっ、じゃあ良いけど。夕飯、もう直ぐだから、早く着替えてきなさい」

「……うん」


そう言いながら。

お母さんは、後ろから私を、ずっと優しく見てくれている。


この短い会話の中で、きっとお母さんは、何かを感じ取ったのだろう。


流石、自分のお腹を痛めて生んだだけあって、娘の事は何でもわかるらしい。


ホント、母親って凄いね。


けど……そんなお母さんの優しさが、今の私には痛かった。

此処でお母さんに頼ってしまったら、又、何かあった時、誰かに甘える悪い癖がついてしまう。


そう思った私は、言いたい事を我慢して階段を上がり、自分の部屋に行こうとする。



「歩美……なにがあったかは知らないけど。それはお母さんにも相談出来無い事なの?」

「……」


お母さんの、そのたった一言で、私の足は階段を上る事をやめた。


握り拳をギュッと握って。

肩で息をしながら、涙が出るのをグッと堪えた。


我慢しないと、直ぐにでも、お母さんに甘えてしまいそう。



「言っちゃいなさい。お母さんが、ちゃんと聞いてあげるから」

「……うっ、ううぅ……お母さん」

「はいはい、そんなに泣いて、どうしたの?」


階段を一気に駆け下り、母に抱き付く。


結局、自分の意志を通せずに、母に甘えてしまった。


***


 アレから10分ほど。

グズグズと泣きながら話す私の話を、お母さんは何も言わず、ただ頷くだけで、最後まで話を聞いてくれた。



「ふぅ~、なるほどね。歩美がしょぼくれていたのは、そう言う事だったのね」

「……うん」

「じゃあね。特別お母さんが、歩美の悩みの答えを教えてあげる」

「……うん」

「その前に涙を拭いて……ほ~ら、折角、可愛く生んであげたのに台無しじゃない」

「……うん」


『うん』しか答えられず、お母さんの言うがままにハンカチで涙を拭いた。


お母さんは、その間。

何も言わず、少し微笑んで待ってくれた。



「それじゃあね。まどろっこしい事は抜きにして、最初に結果から言うわね」

「……うっ、うん」

「今回の件は、明らかに、どちらも悪い。これがお母さんの意見」

「えっ……」


お母さんが、キッパリと言い切った答えは、意外なものだった。


私は、少しでも、お母さんが味方してくれると甘えてた部分があったので、少くなからずショックを受ける。



「だって、そうでしょ。歩美は、那美ちゃんの気持ち何も考えてないし。で、その上お節介が過ぎる。那美ちゃんも、自分の気持ちを人に任せるなんてダメ。自分の気持ちは、自分で伝えるもの。それが出来ないからって人に任せて、逆恨みしちゃダメでしょ」

「……うん。そうなんだけど」

「でも、今回の件は、歩美から、ちゃんと先に謝りなさい。歩美の気持ちがどうあれ、先に那美ちゃんの気持ちを踏み躙っちゃったのは、事実なんだから」

「あっ、うん……でもね、お母さん言う通り、私だって謝ろうとしたんだよ。なのに那美が話を聞こうともしないんだもん」

「でも、結局、なにも謝れてないんでしょ。だったら謝ってないのと一緒でしょ。それに気持ちが引けない時も有るでしょ」

「あぁうん……そうだね」


私は、自分の事を棚に上げて、那美も、少し悪いと言いたかった。


けど、お母さんに、それを言うとアッサリ全否定されてしまった。


口惜しいけど、お母さんの言う事は間違っていない。

確かに私は、那美に言い訳をしようとしたが、謝ってはいない。


そんな少し悩んでいる私を、お母さんは、常に、あの微笑みのまま見ている。


なんで、こんな時の母さんは笑ってるんだろ?



「ねぇ、お母さん、なんで、さっきから笑ってるの?」

「うん?あんな小さかった歩美が、もうそんな事を悩む様な歳になったんだなぁって思ってね……少し、感慨深いものが有ったのよ」

「……もぅお母さんたら」


母親って、ヤッパリ、そう言う事を思うもんなんだ。


私は、当然、母親になった事が無いから、良くは解らないんだけど。

ウチのお母さんも、他の家のお母さんも、きっと、それは同じなんだろうな。


なんて考えながら。

私も、少しお母さんの方を見て、感情を共感したのか、やや感慨深くなる。


何度も言うけど、ほんと母親って凄いね。


そんな風に、余裕を持って優しく娘を包んでくれるお母さんの事を『自慢』に思いながら。

明日、那美に、ちゃんと謝ろうと、私は決意した。


だけど……



「わかったんなら、ほ~らぁ、今から那美ちゃんに謝りに行きなさい」

「えっ?……今日?今日はさ、ほら、もぅこんな時間だし、明日じゃダメかな?」


明日、謝るつもりでいた私は、お母さんのこの一言には驚いた。


なにも今日じゃなくても……



「そうよ。喧嘩した今日じゃなきゃ意味が無いでしょ。ほらほら、着替えて早く行きなさい。それともなぁ~に?歩美は、明日までウジウジ悩んでるつもり?」

「そうだけど……でも……」

「でも、なぁ~に?……歩美。今、謝りに行かないと、本当に後悔しちゃうよ。私の娘なら、嫌な事は後に回さず、先もって、さっさとやる」


さっきも言ったけど。

明日、学校で謝るつもりで居たものだから、お母さんの意見が中々取り入られない。


心では、その方が良いって解ってるんだけど……もう一方では『明日にしたい』って、気持ちもなくはない。


だから、心のバランスが上手く取れなくて、心も体も上手く動いてくれない。



「うん……解ってるんだけどね」

「そぉ……じゃあ仕方がないから、少しだけお母さんが背中を押してあげる。なんで今日かって、意味も教えてあげる」

「……なに?」

「歩美がね。今、反省しても、まだ言い難いって思ってるんなら、きっと那美ちゃんも、言い過ぎたとか思ってる筈だからよ」

「うっ、うん」


それ位は解ってた。


でも、ひょっとしてだよ。

那美には、そんな気持ちが全然なくて、私の勝手な思い過ごしだった場合、事態を更に悪化させる可能性もある。


現状では、ついつい、そうやって悪い方向に考えてしまう。



「まだ納得出来てないみたいね。でも、そうやってる内に、明日になったら、きっと那美ちゃんは、そんな気持ちが無くなって『意固地』になってるかもよ。そうなったら、歩美の話を聞かないわよ。……お母さんもね。歩美と同じ様な経験をした事あるから」

「お母さんが?」

「失礼ね。そりゃあ、お母さんだって『中学生』の時は有ったんだから。それ位は有るわよ。でも、今の歩美とは立場が逆。怒ってる方だったんだけどね。……ふふっ、懐かし」


お母さんは『失礼ね』って言いながら少し膨れて、直ぐに遠い目をして微笑んだ。


でも、意外だよね。

お母さんでも、そんな事が有ったんだ。


自分の母親を、こんな風に言うのも変なんだけど、見ての通り、私のお母さんは、凄く可愛い。


今年38歳になるんだけど、誰がどう見ても、とてもそんな年齢には見えない。

私が姉って言えば、十中八九、男女問わず誰でも騙されると思う。


……って言うか。

実際、20代どころか10代にしか見えないんだよね。


それこそ私の制服着たら『中学生』……には、流石に無理があるかも知れないけど、100%『高校生』では通る筈。


それぐらいお母さんは若く見える。


しかもね、この間お母さんの実家に行った時。

お婆ちゃんに、お母さんの『学生』の時の写真を見せて貰ったんだけど、それがもう、犯罪的可愛さ。


でも、多分、男子も、可愛いのが解ってても、逆に声を掛けずらい感じがする。


そんな全てに恵まれているお母さんが、那美と同じ事をしてたなんて信じられない。


―――いや、那美と同じだからこそ、信じられる話なのかなぁ?


あの子も可愛いもんなぁ。


でも、この話を聞いてたら、お母さんって、結構奥手だったのかなぁ?



「それで……どうなったの?」

「それがね。その子、告白されたその日に、直ぐに謝りに来たのよ。初めは、私も凄く怒ってたんだけど。よくよく考えたら、別に、その子、何も悪くも無いのに必死に謝ってる訳でしょ。……そうやって謝られている内に、なんか自分のやってる事が虚しくなってきちゃってね。直ぐに仲直り。まぁ元々その子とは親友だったしね」

「へぇ~、それでお母さん達は仲直りできたんだ。でも、お母さんをフッた男の人って誰?」

「ふふっ、これも因果なのかしらね……那美ちゃんのお父さん、高井田さんよ」

「えっ?……えぇええぇぇぇえぇ~~~~!!」


じゃあなに?

昔、お母さんが、那美のお父さんにフラれて、那美のお母さんと結婚。

それで那美が生まれて、那美が龍斗にコクッたら、今度は那美がフラれて、私と龍斗が付き合ってるって事?


なに?この親子関係因果律?


知らないところで、なんかすごい事になってるよ。



「これで解ったでしょ?那美ちゃんのお母さんが、今の歩美の気持ちが1番解る筈よ……これがね、さっきお母さんの言ってた、歩美に教えて上げられる『今日の方が良い』って意味」

「そっかぁ。那美のお母さんが、一番良く解ってくれるのかぁ」


少し気が楽になった。


でも、那美のお母さんも。

自分の子供が、そんな事になってるとは知らないんだろうなぁ。



「まぁ、昔の事だから、憶えてたらの話だけどね」

「うぅ~~~~」


うわ~ん、お母さんの馬鹿!!

なんで此処まで、私の行く気を盛り上げといて、そこで急に落とすかなぁ。


普通そう言うのは、知らない振りして、黙ってたら良いじゃん!!


あぁもぅ、お母さんの意地悪~~~。



「うぅ~~~~」

「ごめん、ごめん、怒らないの。でもね、これは元々、歩美と、那美ちゃん問題でしょ。本当は、私達の話なんか、ただの助言で、本来はなんの関係もないの。今、大切なのは、歩美が、本当にどうしたいかが問題……歩美は、どうなの?那美ちゃんと仲直りしたいの?」

「……うん。したい」

「じゃあ、早く行きなさい。愚痴愚痴言ってると夕飯抜きにするわよ」

「……うん、そうだね。じゃあ、夕ご飯抜きにされるのも嫌だから、行って来る!!」


私がそう言うと、お母さんは満足気にパタパタと台所に戻って行った。


その時、お母さんがボソボソって何か言ったけど、よく聞こえなかった。



「ほんと、佳代子(那美のお母さん)にそっくり……可笑し」


それで気になったもんだから。

玄関靴を履きながら、そっとお母さん方を見たら、なんか笑ってるし。


もぅなによ!!


この後、お母さんのあの不敵な笑みは忘れて、必死に自転車を漕いで、那美の家に行って話をした。



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