●前回のおさらい●
龍斗の話を奈々としている間に、奈々から『龍斗が近日中に誰かと付き合う』と言われて動揺する歩美。
そんな歩美は……
3月9日 PM3:25 井上歩美の部屋
7日の金曜日の放課後。
帰り道で奈々に言われた言葉が、私の中で、ずっと引っ掛り続けていた。
『氷村は、近日中に、誰かと付き合うよ……それが、誰かは知らないけどね』
最初は、本当にそんな事が有るのかな?とか、かなり疑心暗鬼に思ってはいたんだけど……
翌々考えたら、奈々の推理的中率がハンパな物ではない事を再び思い出した。
こういった話に関らず、奈々が推理を外した前例は殆ど無い。
何でそんなに的中するのか、気になって7日の夜に電話で聞いてみたところ。
どうも彼女の父親が探偵らしく、彼女も、その『洞察力』を引き継いでいるらしい。
なんとも嫌な話だ。
まぁそんな事は、どうでも良いんだけど。
問題は、アイツが、誰と何所で、どうやって付き合い始めるかって事。
勿論、当事者のアイツに、そんな馬鹿げた事を聞ける筈も無いんだけど……アイツが好きな私としては気が気ではない。
だから、それが気になって部屋で悩み続けていた。
けど、そうやって部屋で、ずっと悩んでるのも嫌だったので。
昨日、アイツの家に行ってみたら、なんと家の前で本人と鉢合わせする始末。
動揺を隠そうと話のネタを探した所。
なんかアイツが、沢山の荷物を持っていたのを発見。
「何所か行くの?」って聞いてみたら……
「あぁ仕事仕事、今日と、明日、親父の手伝いで泊り込みなんだわ。……あのクソ親父人使い荒いんだよな」とか言われて。
「ふ~ん」としか答えられなかった。
結局、この時点では、そんな誰かと付き合う様な素振りは何も見せなかったんだけど。
奈々の言うセリフの信憑性を考えると。
ひょっとしてコイツが付き合うのって『芸能人?』等と言う、最も短絡的な思考に行きついてしまう。
そうなってしまったら……まぁ、正直どうしようもない。
打開策も無ければ。
それこそ私が芸能人に勝てる見込みなんか、何所を見渡しても全く無い。
だから今の所は、心の中で、そう言う出会いが無い事を望むしか、私には方法は無い。
ベットに寝転びながら、私は、そんな事ばっかり考えていた。
「うぅ~~~うぅ~~~!!」
虚しい思考は止まらず。
足をバタバタさせて、枕に顔を埋めて考えを逸らすしかない。
なに1つ生まない生産性の無い行動。
―――馬鹿みたい。
でも……枕に顔を埋めていると、アイツが、私の知らない女と楽しそうにしているビジョンばっかり沸いてくる。
―――ほんと私ってば、どんだけアイツの事好きなんだろ?
結果、今日1日そんな事ばっかりして過ぎていった。
―――ほんと何やってんだろ?
3月10日 AM7:34 井上歩美の部屋
昨日の失態とも言える1日を振り返り。
『悩んでても仕方が無い』って、結論に至った私は、今日は、少なからず気合を入れて行こうと決意。
その為か、先程入った風呂でも、無意味なまでに念入りに体を洗ってみた。
まぁだからと言って、別に、どうこうなる訳じゃないんだけど……今日の私は、いつもより、ほんの少しだけ気合が入っている。
部屋に戻っておニューの下着も着けて、いざ!!
……なんて言っては見たものの。
多分、アイツの顔を見たら、いつも通りになっちゃうんだろうなぁ。
ほんと嫌だなぁ。
まぁ良いや。
兎に角さ、ちょっとずつでも、なんか始めよ。
最低限度、日進月歩しなきゃね。
3月10日 AM8:12 氷村邸前
必死にテンションを持続しようと、急いでアイツの家まで走っていく。
そうすると、アイツの家が見える位の所で、アイツのおじさんを発見する。
無駄にテンションが上がったまま、満面の笑顔で挨拶してしまう。
「おじさん、おはようございます。今日も寒いですね」
うっ!!流石にこれは、声が大きくなりすぎて、ちょっと恥ずかしかったな。
「おっ、歩美ちゃん!!おはよう。確かに、今日は寒いねぇ。にしても、今日も元気だね」
おじさんも、そんな私に気を使ってくれているのか、私よりも大きな声で反応してくれた。
なんか申し訳ないな。
このおじさんって芸能界でも1・2を争うスタイリストなのに……
まぁ凹んでても仕方が無い。
気を取り直して、行ってみよう!!
「へへぇ~~~。まぁ、私は、元気だけが取り柄ですからね。………ところでおじさん、龍斗は?……まさかアイツ、まだ寝てるんですか?」
寝て無いのは知っている。
アイツが早起きなのも、重々承知の上。
多分、この時間帯なら、洗面所でヘアスタイルでも弄くってんだろうな。
「いや、多分、さっき洗面所でゴソゴソしてたから、起きてるはずなんだが……全く朝から、何やってるんだろうなぁアイツは?こんなに可愛い娘さんを、こんな寒空で待たせて」
「もぉ、嫌だなぁ、おじさん!!可愛い娘だなんて……」
ほんと嫌な親子だな、この人達って。
そう言う事を平然で言ってくるんだもんなぁ。
そんな訳なんで。
取り敢えず、叔父さんの肩を軽く『バシッ!!』
「いやいや、歩美ちゃんこそ、なに言ってんの?君は、そこら辺のアイドルなんかより、ずぅ~と可愛いよ。おじさんが言うんだから間違いない。太鼓判押しちゃうよ」
「もぅ!!おじさんたらぁ~~~、本気にしちゃいますよ」
そんな事ばっかり言うおじさんは、再び『バシッ!!』
「うぐっう!!」
あれ?調子に乗って強くしすぎたかな?
おじさん、ごめん。
そう思ったのも束の間、玄関の扉を開けて、呆れ顔のアイツが見えた。
このタイミングの悪さ……ホント嫌な感じ。
「はいはい、朝っぱらから騒がしいな。一体、俺んちの前は、どうなってんだよ?それに、その見るに見かねる朝の援助交際的スキンシップ。ホント、マジで勘弁してくんねぇかな?近所迷惑だし」
とかとか、ふざけた事を言いながら龍斗は登場する。
それにしても、アンタって人は……私は、こう見えてもアンタ一筋なんだよ。
ちょっとはこの健気な気持ちに気付け、この馬鹿!!
「なっ!!……誰が援助交際よ!!」
「はいはい。オマエだよオマエ」
「もう、人を待たせといて、なによ、その態度。頭おかしいんじゃない!!」
もぅほんと。
なんで、こんな奴を好きになったんだろう?
今朝、折角、気合を入れたのも無駄。
結局は、いつもの『素』の私に逆戻り。
「そうだぞ、龍斗!!父さんは、歩美ちゃんと話すのに、お金なんて払ってないぞ!!俺は、そんな情けない男じゃないぞ!!」
いやっ、おじさん、そう言う事じゃなくてさぁ。
はぁ~、もういや。
「はいはい、お待たせして申し訳ありませんでしたね。……噂の『そこら辺のアイドルよりも可愛い歩美さん』今日も、お綺麗なこって」
「なっ!!聞いてたの!!あんたって最低!!」
え~~~~っ、最悪だぁ。
なんで、そんな余計な事ばっかり、アンタは聞いてるのよ~。
「オマエはアホか?最初から、全部、家の中まで丸聞こえだったよ。まぁ普通、あんなに大きな声で喋ってたら、ご近所さんにも聞こえるわな」
「うっ!!」
はぁぁあぁ~~~、テンションが高いのが裏目に出た感じだよぉ。
これじゃあ私、単なるアホじゃん。
「……とは言っても、可愛い可愛い歩美さんには、この寒空の中、お待ち頂いたのだから、優しい俺様は、この恥ずかしい事実を、学校では内密にしといてやるよ。ありがたく思え」
「ばっ、馬鹿じゃないの!!もぅいいわ……別に、あんたを待ってた訳じゃないし。近所のよしみで誘いに来ただけなんだからね!!……まぁ、アンタのおじさんと話が盛り上がったのだけは、認めるけどね」
あぁもう全部台無しだよぉ。
とうとう自分から『幼馴染』宣言しちゃってるよ、私。
「さいですか、ところで歩美さん……」
「なによ~?まだ何か言いたいの?」
「あぁ言いたいねぇ。オマエさぁ、時間……今、何時だか御存じですかねぇ?」
時間?
私は不意に自分の時計を見る。
時間はAM8:30位。
『!!』
遅刻だ!!
付け加えるなら、バスにも既に間に合わない時間だ。
まぁこんな事を言ってはいるけど。
いつも通り、龍斗がチャリで送ってくれるんだろうけどね。
私も、最初から、それが狙いだし……
「もう、なんでもっと早く出て来ないのよ~、あんたって人は!!おじさん、行って来ま~す」
「はい、いってらっしゃい」
そんなおじさんの声に、手だけ振って、思い切り走っていく。
龍斗はと言うと、私の後ろから、楽しそうに自転車で追いかけてくる。
うん……此処だけは、いつも通り、狙い通りだね。
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