●前回のおさらい●
歩美ちゃん、自分の母親について、なにやらおかしな事が気に成り始めたみたいですね(笑)
「お母さん」
「なに?」
「お母さんって、自分の年齢を言い当てられた事ある??」
「自分の年齢?どうかしらね?私の周りに、あんまり女性に年齢を聞く人なんて居なかったからね」
「そうなんだ。じゃあ1つ、お願いしても良い?」
「なに?良いわよ」
「私の夏の制服着て欲しいの」
「『!!』いっ、いやよ。絶対いやよ」
思っていた答えとは反して、ノリが良い筈のお母さんが異様に嫌がった。
なんでだろ?
絶対、似合うと思うんだけどなぁ。
「なんで?」
「なんでも、ヘッタクレもないわよ。アナタ、お母さんが幾つだと思ってるのよ」
「39歳」
「あのね、歩美……39歳のオバちゃんが、中学生の制服なんて着たら、只のおかしな人でしょ。だから、絶対にイヤよ!!」
「それは、普通のどこにでも居るおばちゃんの話でしょ」
「なに言ってるのよ。お母さんだって、普通のオバちゃんでしょ」
えぇっと……お母さんこそ、なに言ってるの?
家にある鏡を見た事ないの?
でもさ、こう反抗されると余計見たくなるんだよね。
「ねぇ~、お母さん、一回だけ。ねぇ~、お願いだってばぁ」
「だから、イヤだって」
「だからなんでよぉ?」
「恥ずかしいじゃない」
「じゃあ私にだけ……ねっ、ねっ、それなら良いでしょ」
「歩美にだけ……でも、イヤよ。って言うか、アンタ、なんでそんなにしてまで、そんなものが見たいのよ」
うん?
お母さん、ちょっとだけ譲歩する気になったのかな?
言葉の節々に、しても良いかなって言うのが感じられる。
なら、もぅ一押ししてみよ。
「だってぇ~」
「だって、なによ?」
「お母さんって、どう見たって十代に見えるんだもん。友達、みんなそう言ってるよ」
「私が十代に見える?……ふふっ、なに言ってるのよ、この子は。そんな訳無いでしょ。からかわないの」
「だ・か・ら・さっ、私が、それを確認してあげるって。確認だよ確認」
「うんもぅ、しょうがないわね。一回だけよ」
「お母さん大好き」
ヤッパリ最後は、お母さんに脈々と流れる関西人の血が騒いだみたい。
そんなノリの良いお母さんが、私は好きだ。
まぁ時と場合によるけどね。
っとまぁ、そんな訳で。
お母さんを連れて、私の部屋に行く事になったのね。
勿論、この時点で、一階に居る人達は無視。
私って、なんて快楽主義者なんだろ。
***
……辞めて置けば良かった。
真実から目を背け続ければ良かった。
でももぉ、私には、そこから目を背ける事なんか出来なかった。
―――お母さん、ヤバ過ぎ!!
似合うとか、似合わないなんてレベルの話じゃない。
これは既に反則の域だ。
普通、39歳のオバサンが、こんな物を着たら、どこかに違和感が生じる筈なんだけど。
そんなものは、何所をどう探しても見つからない。
大体、私は少しお母さんに意地悪をして、今度テレビ番組で使う制服を渡したんだよ。
それにも拘らず、これが又、完全にフィットしてやんの。
何所の世界に『ニーソックス』を違和感無しに履ける39歳がいるのよ。
どうやら母は、みんなが言う様に、歳を喰う機能が無いらしい。
お母さんは、エルフ族かって言うの!!
はぁ~、やっぱ辞めときゃ良かった。
「歩美……お母さん変?やっぱり変よね」
「全然」
私は、お地蔵さんみたいな白け切った顔で、そう答える。
「歩美、なんか冷たくない?アンタがやれって言ったんでしょ」
「そうだけどさぁ。まさか、そんなに似合うとは思ってなかったんだもん」
「そんなに似合ってる?……ふふっ、な訳無いでしょ。多分、それは、アンタの贔屓目よ贔屓目」
贔屓目?
じゃあ、そのまま下に降りれば。
自ずと答えは出ると思うよ。
オジ様方メロメロ。
繭ちゃん大不機嫌。
っと、母に意地悪な事を思う私。
「ハァ」
「なによ、その溜息。言っとくけど、お母さんだって恥ずかしいんだからね」
うん。
心配しなくても、誰も39歳のオバちゃんだなんて気付かないよ。
寧ろ、そのまま街に出たら、数十人にナンパされると思うよ。
「ハァ~~~」
「だから、なんで、さっきから溜息ばっかり付くのよ?お母さんだって、やりたくてやってる訳じゃないのよ。歩美が、どうしても一回やってって言うからやったのに……ほんとに恥ずかしいんだから」
まぁ、そうなんだけどさぁ。
私だって、無理にお母さんに、そんな格好をさせて悪いとは思ってるよ。
でも、お母さんについては、納得いかない事が多過ぎるんだよぉ。
「ハァ~、そんな格好させて、ごめんなさい」
「だから、なんで溜息なのよ?ほんとにもぅ」
仕草が可愛いなぁ、もぉ。
そう言った所を、全部遺伝で伝えて欲しかったよ。
『ピンポ~ン』
って、来客だ。
時間からして、今度こそ龍斗だろうな。
でも、多分、下にいる連中は、誰も出ないだろうな。
龍斗のおじさんと、佐伯さんは完全に酔ってるし。
ウチのお父さんは一滴でもお酒が入ったら動かない……いや、正確には動けない。
後、繭ちゃんがいるけど、他人の家の来客に出る様な子じゃないから、彼女も無理。
そんで、お母さんは、この状態だから無理……って、言うかヤメテ。
私はと言えば、お母さんに制服を着せるのに。
ついついエキサイトしちゃったもんだから、やや汗ばんでる。
そんな状態で、アイツに逢いたくない。
だってさぁ、汗臭いとか思われたら最悪じゃん。
って思ってたら、お母さんたら、何の躊躇も無しに、私の部屋にあるインターホンを取って会話を始める。
「は~い、どなた~?」
「御無沙汰してま~す、氷村です」
って、嘘!!
そんな恰好でどうするつもりよ、お母さん?
「あら、龍斗君、早かったわね。開いてるわよ。ど~ぞ」
「ちょ……お母さん!!」
「知らないわよ」
そう言ってお母さんは、部屋を出て階段を一気に下り始める。
まさか、その格好で出るつもり!!
冗談よね。
冗談だよね。
「えぇ~~~~!!お母さんってばゴメン、ごめんなさい!!」
「知らないわよ……きゃっ」
「お邪魔しま~す」
階段を下る途中で、躓いてお母さんは下に尻餅をついた。
っと同時に、龍斗の馬鹿が、玄関から入って来た。
うわ~~~っ、最悪。
「痛ッたぁ~。って、ご無沙汰ね、龍斗君。アンタ、また男前になったんじゃない?」
そんな母に気付かない龍斗は、頭の上で『?』マークが飛び交ってる。
そりゃ気付かないよね。
「えっ?えぇっと、どなたでしたっけ?歩美の親戚ッスか」
「なに言ってんのよ、龍斗君。オバちゃんよ、歩美のオバちゃん」
「はぁ?」
正に素っ頓狂な声を上げる。
って言うか。
それはさて置き。
お母さんってば、さっきの尻餅のままだから、下着丸見えじゃない!!
隠して、隠して!!
「お母さん、お母さん。下着見えてるって」
「うん?あらいやだ」
私が、その声を上げた瞬間に、龍斗の目は一瞬にしてお母さんの下着に目が行く。
信じられない!!
なんて高性能なエロ機能なの!!
でも、ホント信じられないのは、彼女のお母さんのパンツを嬉しそうに見る、アイツ。
人のお母さんのパンツなんか見るなっつぅ~の!!
「ゴメンね。お目を汚しで……」
「黒レース……人妻万歳……ぶしゅぅぅぅぅ~~~~」
「あら?」
鼻血を垂れ流しながら、龍斗は至福の顔をしたまま、その場に倒れこんだ。
「えっ?えっ?えぇぇえぇ~~~!!なになに?ちょ、ちょっと龍斗!!龍斗大丈夫?龍斗!!龍斗ってばぁ~!!」
揺すって見るが無反応。
白目を剥いて気絶してる。
人妻の下着は、中学生には、まだ刺激が強すぎたみたい。
雑誌とかじゃなく、生で見る機会なんか早々ないだろうしなぁ。
しかも、ウチのお母さんって言うのが最悪。
見た目があんなだし、それでいて年齢は39でしょ。
幾ら、龍斗が、普通の中学生じゃないとは言え、ギャップが有り過ぎて、頭が混乱するって。
でも、だからと言って納得いく程、私は大人じゃない。
……勿論、ムッとして顔面にチョップ。
「グパァ~!!」
―――もぅアンタは、何しに来たのよ!!
***
……あれ?
おかしい?
おかしいよ。
思い出が……思い出がなにか違う?
どうして?
私の思い出の中に、人前で龍斗が、こんな無様な姿を見せた記憶なんて無い。
これは一体、誰の記憶なの?
それに、少し前から気になってたんだけど……奈々って誰?那美って誰?
この2人は、どこの子?
私には、彼女達に逢った記憶なんて無い。
それに私は、陸上部に所属していた事など無い。
意識が混濁する中、何かの歯車が狂い始めた予感がした。
私と、もう1人の私の記憶が重なって行く。
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