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第6話 自販機

公開日時: 2022年10月19日(水) 21:44
文字数:863

 目を覚ました。

 喉が渇いた。

 ひゅうちゃんは服を着替え、部屋から出る。

 洗面台には猫背気味の祖父が歯を磨いていた。

 ちょうどうがいをして、コップと歯ブラシを片付けている最中。


「おはようひゅうちゃん、今日はゆっくりだね学校休みか?」

「おはよう……夏休み、だよ」


 少し俯いて控えめな声で答えた。

 ニコニコと笑う祖父は膝に手をついて屈む。

 俯くひゅうちゃんを覗くように見つめる。

 優しい皺に、ひゅうちゃんは目を逸らす。


「ひゅうちゃん元気ないな、前はもっと明るかったろ? どうした?」

「夏バテかも、ちょっと喉渇いたから自販機……行ってくる」


 外に飛び出した。

 セミの鳴き声と遠くに映る道路と畑が揺れている。

 時々通る軽トラや運送トラック。

 ひゅうちゃんは小さく息を吐き、道路を歩く。

 田舎町にある唯一のドリンク自動販売機がある道端、その前で少年が硬直したまま突っ立っている。


「……ハジメくん?」

「しーっ」


 人差し指を口元に当て、黙るようジェスチャーするハジメ。

 下に顔を向け、汗だくになりながら何かをジッと捉えている。

 ハジメの横に立ち何が落ちているのか覗くと、セミが空を仰いで地面に転がっていた。

 脚を外側に広げ、ジッとしているセミに、ひゅうちゃんは首を傾げる。


「ハジメくん……セミもう死んでるんじゃないかな」

「騙されるなひゅうちゃん」


 セミに? と眉を動かす。


「よく見て、脚を外に開いてるだろ? これは体力がなくてもう終わりに近い状態なんだよ。少しでも近づけば絶対防衛本能が働いてピーピー鳴いて飛ぶんだ」

「……詳しいね」

「嫌いだから。もう想像しただけで俺、一歩も動けない」

「対処は……」

「近寄らない、でも今俺喉渇いてて、遠くのコンビニより今すぐ自販機で買いたい」

「……セミ、動かそうか?」

「だ、ダメ、ち、近寄ったら」


 ひゅうちゃんは迷わずセミをそっと掴み、木の傍に寄せた。


「はい……」

「あ、あ、あぁああ」


 自販機に小銭を入れる。

 まだ棒立ち状態のハジメは言葉にならない声を出す。

 ドリンクが落下する音が田舎町に鳴る。


「神じゃん!」


 ハジメの最上級の誉め言葉が田舎町に響いた……――。

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