細いタイヤがぐるぐる回る。
いくつもいくつも少女の遠くで回る。
遅れて太いタイヤが激しい回転でやってきた。
少女は感情を抑え込んだ……――。
「ひゅうちゃん!」
突然の声に目を覚ました。
瞼を開けると天井、ではなくニッコリと笑う少年の逆さになった顔が映る。
刈り上げた短めの髪に少し垂れ目。
「あ……ハジメくん……え」
「おはよう! 宿題みんなでやるって約束しただろ。ぜーんぜん来ないから見に来た」
「おはよう……」
「早く着替えて来いよ、俺の家だからな」
ハジメは部屋から出ていく。
ゆっくり体を起こして、着替えを始めた。
必要な宿題や筆記用具を鞄につめて部屋から出る。
玄関には猫背気味の祖父が座っている。
唇を噛んだあと、ひゅうちゃんは呼吸を整えて玄関へ。
スニーカーにつま先を通し、かかと紐を指先で摘まんでしっかり履く。
「行ってきます……」
「おう、行ってらっしゃい」
ニコニコと祖父は見送る。
扉を閉める時、祖父の隣に目をやると、1泊用のリュックが置かれていなかった。
隣の似たような家、田舎町の夏。
畑と劣化が始まっている無音の道路と木と山ばかり。
セミの鳴き声が良く通る。
ハジメの家に入れば、既にかなたとハジメがリビングで宿題を広げている。
「よし、やるか。分からないところは俺が教えるからな、ひゅうちゃん、かなたちゃん」
「おはようひゅうちゃん、今日は寝坊しちゃったね」
「……うん、ちょっと、変な夢見てた」
「変な夢?」
「……もう覚えてない」
ひゅうちゃんは、手首とギュッと握り締めて抑え込んだ……――。
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