車輪が回る。
太いタイヤと細いタイヤが交互に回っていた。
ひゅうちゃんは暗闇を歩く。
ずっとずっと素足で歩く。
すると、前方に明かりがちらついた。
『父を返してください! 返して、返して!!』
喉が枯れるほど返せと叫ぶ女性と、隅に隠れて静かに泣いている女の子。
喪服姿の夫婦が深々と頭を下げて謝罪を繰り返している。
後ろで何も言えずに戸惑っている男性と、女性をなだめている男性。
沈黙したまま棺を見下ろす高齢の男性。
外で震えている女の子。
励ますように隣で声をかけている男の子。
「…………っ」
表情筋を歪め、ひゅうちゃんは手で喉を押さえた。
強く瞼を閉ざす。
視界が霞む……――。
「っ⁉」
はっきりしない意識のまま目を覚ます。
田舎町の外れにある神社。
ひゅうちゃんはむせ込む。
手の指先には血が微かに付着している。
ゆっくり辺りを見回すと、点々とした赤い液体と、顔を押さえてしゃがみ込んだタケルの姿。
「てめぇ……抵抗しやがって」
ひゅうちゃんは後ずさりして神社から逃走。
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