森の中で偶然魔剣を拾いました。

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14話 実技試験1

公開日時: 2021年2月1日(月) 21:02
文字数:3,297

 食堂で英気を養い、午後の実技試験を受けるため会場の横にある大きな運動場へと来ていた。


 さっき変な別れ方をしたラミアはいつのまにか俺の前でウキウキしながら試験官が来るのを待っていた。


 武器は模擬刀ではなく真剣で行うとのことなので受け付けに預けていたアニスを受け取り試験へと臨む。


 "あの倉庫というところは息が詰まってしかたありません"


 アニスが珍しく文句をたれる。


 "お疲れ様です"


 こちらも声を出さず返答する。


「よし、全員集まったな」


 運動場に一人の年老いた白髪の老人が現る。


「私が今回、貴様らの試験官をするタイラス=アーネルだ。よろしく頼む」


 老人の名前を聞いた瞬間、周りがざわざわと騒ぎ出す。


 それもそのはずタイラス=アーネルとは去年まで王直属の精鋭部隊アルバーンの騎士団長をしていた物凄い御仁なのだ。


 そんな人が試験官なのだから驚いても不思議ではない。


「静粛に、これより試験の内容を説明する。内容は至ってシンプル、この私に一撃でも攻撃を与えることができれば合格だ」


 タイラスがなんてことないと言った様子で言うがこれはかなり難しいものだ。


 去年まで騎士団長をしていたしかもあのアルバーン、剣戟のタイラスに一撃でも攻撃を与えるなんて無理な話しだ。


 受験生全員がため息をしながら諦め始める。


「安心しろ、筆記試験の結果がすこぶる良ければ私の試験に合格できなくてももしかしたら合格できるかもな。でも筆記試験で散々だったやつはこの試験を死ぬ気で合格しないと学園になんて入れるとは思わないことだ。さあ、受験番号の低いやつからかかってこい時間は有限だ。暗くなる前にさっさと終わらせようか」


 タイラスは手に持っていた鉄の剣を構える。その姿は異彩を放ち対峙した者の戦意を喪失させるには十分なものだった。


「まさか剣戟のタイラスとお手合わせできるなんてね〜。ねえガーロット、これはかなり面白いことになりそうだよ」


 俺の前に立つラミアは誰かに話しかけるように紅い槍を持って嬉しそうに笑っていた。


「次」


「次だ」


「次───」


 タイラスは次々と斬りかかってくる受験生達を退屈そうに軽くなぎ払い蹂躙していた。


 "あの御仁かなりの手練ですね"


 アニスはタイラスの剣さばきを見て感心する。


 "まあ、去年まで現役バリバリで魔物と戦ってたからね。今の俺じゃあ太刀打ちなんて出来ないよ"


 "そんな弱気でどうするのですかマスター! 私が秘策をご教授致しますので自信を持ってください"


 "秘策?"


 "ええ、よく聞いてくださいね…………"


 頭の中で不敵に笑いながら秘策とやらをご教授していただく。


「駄目だ! 次!!」


 タイラスが次の受験者を呼ぶ、気づくと順番はラミアまできておりすぐ次に俺の番だった。


「やっときた! 待ちくたびれたよ〜」


 ラミアは自身の身長よりも1mほど長い紅い槍を前に突き出し構える。


 "あの赤い槍少し……"


 "ん? 何かあったのか?"


 "いえなんでもございません"


 アニスは紅い槍を見て何か気になるような様子だったが口を閉じる。


「ほう、珍しい槍だな」


 タイラスはラミアが持っている槍を興味深そうに見る。


「偶然拾ったんだ〜」


「ふっ、なんだそりゃ」


 ラミアの返答を聞いて小さく笑う。


「さあ、お前の好きなように仕掛けてこい」


 タイラスは剣を中断に構え受けの姿勢をとる。


「それじゃあ遠慮なくっ!!」


 ラミアは槍を前に構えたまま地面を思いっきり蹴りタイラスへと突進する。その速さはおよそ15歳、しかも天職を授かったばかりの少女が体現する速度では到底ない。


「ほう……」


 しかしタイラスはラミアの常人離れした速度の突進を顔色一つ変えずに難なく右横にいなす。


「今のは少し痺れたぞラミア=アンネット」


 目を見開き、口角を少し上げる。


 タイラスの持っていた鉄の剣を見ると先程のラミアの攻撃のせいて真っ二つに折れてしまっていた。


「さすが剣戟、今のを簡単にいなされるか〜」


 ラミアの表情を見ると先程の笑顔とは程遠い、獲物を狩る獣のように勇ましいものに変わっている。


「おい、あれを持ってこい」


 折れた剣を地面に投げ、端の方で見ていたもう一人の試験官に何かを持ってくるように言う。


「タイラス様、あれは試験時に使うのはおやめ下さいと申したはずです、替えの剣でしたらこちらに……」


 もう一人の試験官は困ったような顔をして替えの鉄の剣をタイラスに渡そうとするが。


「私が持ってこいと言っている。どのみちいくら替えの剣を用意しようがあのじゃじゃ馬にすぐ折られるさ。一人の受験生に剣を何百本も折られるのは資源の無駄だとは思わないかね?」


「か、かしこまりました!」


 試験管は急いで会場の中に入り一本の刀を持ってくる。


「ど、どうぞ……」


 試験官は肩で息をしながらタイラスに刀を渡す。


「ご苦労。さあ、続きと行こうかアンネット」


 タイラスは刀を抜刀して続きを再開する。


「まさか、アレで相手してくれるなんて思わなかったよガーロット……。ますます面白くなってきた!!!」


 玩具を見つけた子供みたいに喜び、酷く歪ませた笑みを浮かべる。


「鬼斬!?」


 俺はタイラスの刀を見て言葉が漏れてしまう。


 "マスター、その鬼斬とはなんですか?"


「あの刀の名前だよ。元々あの刀自体にはそんな名前なんてなかったんだけど、ある日タイラスはあの刀を持って1人でオーガの集落を壊滅させたんだ。それ以来あの刀はそう呼ばれるようになった」


 "あれがただの刀ですか?帯ただし魔力を感じますが……"


 アニスは鬼斬に何か感じるようだ。


「まあ、魔力を帯びててもおかしくないくらいあの刀には色々な噂があるから不思議ではないかな」


 いい噂も悪い噂も沢山あるって話だ。


「うりゃ!!」


 ラミアは先ほどよりも速くもう一度タイラスに向かって突進をする。


「先ほどよりも速くて、キレもいい、だが……単調すぎるな」


 今度は真正面からラミアの突進を受け止め、刀をひと振りしてラミアを弾き飛ばす。


 後ろに飛ばされたラミアは綺麗に着地をする。がタイラスは反撃と言わんばかりにラミアが着地する前に急接近し上段から刀を振り下ろす。


「やばいっ!」


 ラミアは咄嗟に槍でガードするがそこからはタイラスの猛攻撃が続き、反撃する余裕を与えてくれない。


「さっきの威勢はどうした?もっと楽しませてくれよ」


「くっ!!」


 四方八方からとめどなく飛んでくる剣先をラミアは苦しそうにガードする。


「これはもう出し惜しみしてる暇はないな〜。もっと行けるかと思ったけど今の私の実力はここまでか……」


 ラミアは悔しそうに呟き、大きく後ろに飛びのけタイラスと距離を取る。


「ガーロット、あれやるよ」


 ラミアは誰かにそう言うと、蒼いオーラを身に纏う。


「ほう、魔法も使えるとは恐れ入った。その身体能力に魔法とはいったいどんな天職なのか気になるものだな」


 タイラスは焦った様子もなく黙ってラミアが何をしようとしているのか観察する。


「よゆーこいていられるのも今のうちだよ〜剣戟さん」


 タイラスの態度が気に入らなかったのかタイラスを睨みつける。


「我が稲妻は全てを穿つ! 纏え、蒼キ稲妻!」


 ラミアが叫んだ瞬間ラミアの体と槍に物凄い量の蒼い電気が纏う。


 そしてなにひとつの予備動作なくラミアはさっきまでたっていた場所からいなくなり、タイラスの目の前まで潜り込み槍を突く。


 タイラスは少し驚いた表情をするがそれでもラミアの神速とも言える攻撃を最初の時と同じようにいなす。


 ……いや、次元が違いすぎるだろ。なんだよこれ、今の攻防なんて何が何だか全く見えなかったし、次が俺の番なんて考えたくもない。


「クソ……これでもダメか………」


 ラミアは攻撃をいなされその勢いで地面に倒れてしまう。


 "魔力切れですね"


 アニスがそう補足してくれる。


「いや、見事だった。合格だラミア=アンネット、お前はこの学園に入るのに相応しい」


 タイラスがラミアを地面から起こし、もう一人の試験官に医務室へ運ぶように言う。


 タイラスの顔を見ると右頬にひとつ小さなかすり傷がついていた。


「さあ、少し時間がかかったな。次のやつこい」

 タイラスは何事もなく準備運動を終えたような感じで次の受験生を呼ぶ。


「………」


 いや……今の戦いのあとだとすごくやりずらいんですが……。


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