歩き始めてから30分ほど。
意外にも森の出口がすぐに見つかり俺は安堵していた。
あたりは完全に闇に包まれ、空には白く光るまん丸お月様が雲の隙間から顔を覗かせていた。
「良かった、すんなりと戻ってこれた。見たことのない道だったからちゃんと森から出れるか心配だったんだ」
アニスの手を未だに繋いだままゆっくりと村に向かって歩く。
村の入口につくと村の中が騒がしいことに気づく。
「ん? どうしたんだ何かあったのか?」
不思議に思いながらも村の中に入る。
「レイル! おい皆、レイルが帰ってきたぞー! しかもなんかもの凄い|別嬪《べっぴん》さんと手をつなぎながら~」
一人の村の男が村全体に聞こえる大声で聞き捨てならないことを言う。
「手?」
自分の手を見るとガッチリとアニスの手を握っていた。
「ご、ごめん!」
今までずっと自分が無意識にアニスの手を掴んでいたことに気づき、恥ずかしさのあまり急いでアニスの手を離す。
「あ……」
アニスは手を離されてなんだか寂しそうな顔をする。
それを見てなんだかこっちが申し訳ない気持ちになになっていると。
「レイル!」
ステラがものすごい勢いで俺に近づいてきた。
「このバカ息子! あんたはこんな時間まで何してたんだい!」
鬼の形相でステラは怒っている。
なぜお母様はこんなにご立腹なのか自分の今日の行いを考えてみて納得する。
「まあ、そうですよね」
そりゃ怒って当然だ、何せこんな遅い時間になっても山菜採りに行った息子が森から帰って来ないんだ心配もする。
「帰るのが遅くなってごめんなさい!!」
本当に申し訳ない気持ちになりながら、俺がそう言うとステラは力いっぱい俺を抱きしめてきた。
「本当に……心配したんだからね……」
「ちょっ、痛いよ母さん」
これでもかってくらいの力でステラは抱きしめてきた。本当に痛い。
そして同時に涙が溢れ出そうになる。
なんせ一度は死を覚悟して、もう二度と会えないと思ったのだ。涙の一つや二つ出てもおかしくはない。
感動の再開に涙を流そうとした時。
「それで、その娘はどうしたんだい?」
お母様は俺を抱きしめるのをやめてアニスの方を向いて聞かれては困ることを聞いてくる。
アニスはステラに見られて急いで俺の背中に隠れてしまう。
「あれ? アニスどうしたんだ?」
「いえ……あの……えっと……」
手をモジモジさせながらはっきりとしない口調だった。
あ、なるほどな。
アニスが恥ずかしがっているのに気づき俺から説明する。
「えーと、その~彼女はアニスっていって。俺が森で魔物に襲われていたのを助けてくれたんだ」
俺がそう説明すると村の人々はアニスのことより「魔物」というワードを聞いて慌てだした。
「レイルそれは本当なのか!?」
近くで話を聞いていた元騎士のガーディアが真実かどうか確認してくる。
俺が無言で頷くとガーディアは大慌てで村の大人達を集め始めた。
それもそうだろう、村の近くにあるあの森には村ができるずっと前から魔物がいないと言われて、その言葉の通りずっと魔物がいなかったのだ。その魔物が突然、なんの拍子もなく現れれば混乱もする。
それにアニスが倒した一体だけとは限らないし、いつ村が襲われてもおかしくない。
「レイル、よく無事に生きて帰ってきた! あとは俺達が何とかするからお前はゆっくり休め」
ガーディアは俺の肩を叩きそう言うと、なにかの打ち合わせをするために村長のところに行った。
「アニスちゃん……だったかな? うちのバカ息子を助けてくれてありがとう」
ステラがアニスに深々と頭を下げる。
「あ、いえ、その、当然のことをしたまでです……」
まだ恥ずかしいようで俺の背中に隠れている。
「あんた達疲れたろ? さ、うちでゆっくり休みな!」
アニスの言葉を聞いて満足したのかステラは家に戻ろうとする。
「あの、母さん? これからみんなで何をする気だよ? まさか魔物を倒しに行くとか言うわけじゃないよな?」
「馬鹿だねあんたは、そんなわけないだろ。魔物に襲われないように村の周りに結界を貼りに行くんだよ」
どこから出したのか2m程の木の棒を村の男達が運んでいた。
木の棒は魔道具の一種のようで木に文字のようなうねうねしたものがビッシリと刻まれていた。使い方は木の棒で一定の範囲を囲み一時的に結界を作り出し魔物が外から入ってこないようにするためのものだった。
耐久性はあまりなくその場しのぎのものにしかならないがなにもないよりはマシだ。
いくら長い間、魔物が出ないと言っても最低限ではあるが魔物が出た時の対処として結界を張るための魔道具はこの村にもあったようだ。
「あんたは何も心配しなくていい、家でゆっくり休みな!」
俺が村の人達を見ているとステラが家に戻るように俺とアニスの背中を押した。
俺はステラに従いアニスと家に戻った。
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