眼鏡を掛けたバーサーカーの彼と戦って、残りの時間が長くはない事に気付いた。
この暗い夜が明ける瞬間を目にする事は出来るだろうか──そう思うと、たまらなく宇波に会いたくなった。
けれどホルスだと公言している身でアルガスのトップに会いたいなど、虫の良すぎる話だ。
──『お前がいまだにホルスの人間だという解釈で良いんだな?』
都合の良い口約束で大舎卿に『アルガスへ戻りたい』と頭を下げれば、事はもっと楽に進んだのかもしれない。けれど忍の為に生きると決めてアルガスを出た覚悟が、どうしてもその言葉を口にさせてはくれなかった。
弾かれた光の先に宇波が居るのが分かって、最悪の結末が頭を過る。
側に居る護兵や施設員が長官を護るだろう事は言われなくともわかるのに、頭が冷静では居てくれなかった。
キーダーとの戦いを放棄して建物を駆け上がる自分が、アルガスにとって脅威以外のなにものでもない事も承知している。再び向けられた銃口から弾が飛んでくることは想定の範囲内だ。
「これが最後のチャンスだろ?」
15歳でアルガスに隔離された自分は、いざ解放と言われても外へ出ることが出来なかった。
大舎卿のような正義感に溢れていた訳でもなく、浩一郎のように恨みを抱えていた訳でもなく、颯太のように会いたい人が居た訳でもない。
外で生きる意味を見出すことが出来ず、銀環をしたままのんべんだらりとした日々を送っていた自分にとって、肩書を無視して接してくれた宇波と話している時が一番楽しかった。彼の顔を見ていると、何故かホッとできるのだ。
忍と出会ってキーダーを辞めた事には何の未練もなかったのに、ふと思い出すのはここでの生活と宇波の事ばかりだ。
体力はもう限界だ。
バーサーカーは攻撃力こそ強いが、持久力に欠ける。元々薬でやつれた身体で綾斗と戦って、切られた傷を更に美弦に抉られた。
もうこれ以上バーサーカーとしての戦いができるとは思えない。
銃弾の降る壁を気力だけで駆け上がると、追って来た筈の大舎卿が頂上で待ち構える。
いつか宇波と並んで話した屋上だ。
「勘爾さん……」
光を掲げる彼の後ろには、銃を構えた護兵が並ぶ。
「お前はホルスの人間か?」
大舎卿がまたその質問をするが、答えを変えるつもりはない。
「俺はホルスの人間だ」
崩れた屋上の床に手を掛けて、松本は晴れやかに頷く。
大舎卿の表情が一瞬絶望を垣間見せたのは幻だろうか。
「アルガス長官に敵を近付ける訳にはいかんのじゃよ」
大舎卿と護兵の隙間に宇波を見つけた。怪我はしてない様子に安堵する。
彼の顔が霞んで見えたのは、涙なのか大舎卿の放った光のせいなのか、良く分からない。
ふっと全身の力が抜けて、暗い空が視界の全てを覆った。
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