そして五日後の木曜日になって、九州支部所属のキーダー・一條佳祐が本部にやってきた。
『定期報告』と言うキーダーにとって全くやる気の起きない仕事の為だが、ついでだからと都内のホテルに一泊していくらしい。
そんな彼の予定を事務所で聞いて、京子は「やった」と久しぶりの再会にテンションを上げながら到着を待った。
学生組の居ない平日の昼間に、本部のキーダーは京子だけだ。
「佳祐さん!」
空港へ迎えに行った施設員の車で本部入りした佳祐は、後部座席を降りるなり京子を見つけて「よぉ」と笑顔を見せる。
ダークグレーのシャツに茶色い皮のジャケットを羽織った私服姿だ。制服の入った衣装袋を肩に担いで、車のリアから小さいボストンバッグを取り出す。
「久しぶりだな。夏に頭打ったって聞いて心配したんだぞ。具合はどうだ? もういいのか?」
「ありがとうございます、すっかり治ってますよ」
「なら良い。無茶ばっかするんじゃねぇぞ」
佳祐は犬か猫でも愛でるように、京子の頭を厚みのある大きな手でぐしゃぐしゃっと撫でた。
「これ、みんなで食えよ」
「やったぁ」
会う時にいつも持って来てくれる、定番のカステラだ。今回は仕事で来たという理由からか、渡された黄色の紙袋には箱がいくつも入っている。
見上げる程大きな彼に「ご馳走様です」と礼を言った。
桃也やマサよりも背が高く大柄な彼は、壁のような男だ。ワックスで固めた短い前髪が、いつも通りピンと上を向いている。
「なぁ京子、今日仕事終わったらメシ付き合えよ」
「私……だけってことですか?」
「あぁ。でぇとだ」
それが恋愛感情を含まないものだという事は分かっている。
今日はみんなを誘って食事をと考えていたが、突然の誘いに少しだけ戸惑いながら「分かりました」と返事した。
「抜け駆け、ですね」
「そんなんじゃねぇよ。うるせぇのが苦手なだけだ」
「知ってます」
彼が一人で居ることを好むことも、下戸なことも知っている。
「じゃあ、パーッとラーメンでも食べに行きましょう」
そしてラーメンが好きなことも知っている。
彼は一人っ子の京子にとって、兄のような存在だった。
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