崩れた屋上からカッと閃光が伸びて、たちまちに落下する黒い影へ美弦は念動力を飛ばした。
平野と浩一郎を合わせた三人分の能力で、松本の巨体を支える。草のある地面を選んでゆるりゆるりと下ろした所で、田中が横から「行きますか?」と声を掛けてきた。
「えぇ」と答えた美弦は背中を彼に守られつつ、駐輪場から平野たちの所へ移動する。
仰向けに横たわる松本は出血の範囲を広げていて、やっと息をしているような状態だ。細く開いた唇から、荒い呼吸音を響く。
ホルスの彼はキーダーにとって敵だが、浩一郎は捕える素振りも見せず、とどめを刺す様子もない。平野は不満気な顔を貼り付けていたが、「悪いな」と眉尻を下げる浩一郎に溜息を向けるだけだ。
浩一郎が「おい」と松本を見下ろした。
「ヒデちゃん、まだ生きてるだろ? 目を開けろよ」
「…………」
「それともまだ戦うつもり?」
松本の頬がヒクリと揺れて、唇が何か言いたげに動く。
細く開いた瞼から虚ろな瞳が浩一郎を探した。
「もう……戦えないよ」
「諦めるの? バーサーカーなら大逆転できるんじゃない?」
「……俺に、ここで暴走させるつもりか?」
「しそうになったら殺すけどね」
悪気なく言い放つ浩一郎に、松本は「頼むよ」と笑んだ。
けれど松本が残った力の全てで暴走を阻止しているのが何となく分かる。
建物から足音が響いて、松本は目を見開いた。
もう顔を動かす事も出来ない。
「宇波さん……」
それが誰なのか理解した瞳から、突然の涙が溢れた。
入口から出てきたのは、何人かの護兵を引き連れた大舎卿と宇波だ。
アルガス長官の宇波誠は松本の側に立って、いつもの調子で「久しぶりだね」と声を掛ける。
「松本君にまた会えるなんてね。懐かしいよ」
「俺もです。無事で……良かった」
何十年かぶりの再会に、松本の声が震える。
「結局君は僕の所へ戻って来てくれたのかな?」
満足げに宇波は笑むが、松本は「すみません」と小さく零した。
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