戦闘時におけるパラシュート降下で最も気を付けるのは、攻撃の的にならない事だ。
降下中は動きが制限される上、存在感も大きい。
煌々と光る廃墟に無数の気配を感じながら、京子はパラシュートを開く。けれど、4人全員が地面に足をつくまで、一つの攻撃も襲ってはこなかった。
下りて最初に感じたのは、静寂だ。
気配はあるのに姿は見えず、音もない。
記憶のままの観覧車が目の前に光っているが、動いてはいないようだ。
建物の前にある広場にポツリと立つ忍を見つけて、京子は息を呑む。
初めて会った時と同じ青いジャケット姿で微笑む彼の足元が、黒く濡れていた。その意味を想像しながら、京子はパラシュートをグルグルと腕に巻きつける。
「忍さんは、ここで何をしていたんですか?」
「京子たちを待ってたんだよ」
「そうじゃなくて……」
「戦うための準備だよ」
忍は横並びに対峙する4人を嬉しそうに見据える。
「ゲスなことするんじゃねぇよ」とコッソリ吐き出す修司に、京子は「まだ駄目」と注意した。
「もっと早くここを見つけられると思ったけど、意外と遅かったね」
「そっちが勝手にやってる事だろ?」
「まぁね、君が高峰桃也くん? アルガスの次期長官って言うからベテランのキーダーかと思ってたけど、案外そうじゃないんだ」
「何が言いたいんだよ」
苛立ちを隠せない桃也に右手を伸ばし、忍は握手を求める。しかし反応はなく、桃也はムッスリとした視線を突き付けるだけだ。
「まぁ俺だって友好関係を築きたい訳じゃないよ」
「……銀環制度の撤廃がホルスの要求なんだろ? 俺たちはそれを望まないし、ホルスの存在も認めない。力ずくで否定してやるよ」
逆に桃也は左手を差し出す。決闘の意味だ。
忍は「おぉ怖い」と笑って、パシリとその手を甲で叩いた。
「君が『大晦日の白雪』を起こしたんだろう? 佳祐とは仲が良かったみたいだけど、彼がこっち側の人間だって知ってたの?」
「あぁ」
「へぇ」と忍は眉を上げる。「知ってたんだ」という彰人の意外そうな声に、桃也は「消されてたんだよ」と吐いた。
ホルスに通じていた佳祐は、記憶操作という特殊能力を扱うキーダーだった。彼が敵だった事を証明するように、忍はやたらアルガスに詳しい。
桃也はダルそうに溜息を零した。
「こんな場所に俺たちを引き込んで、話し合いをする訳じゃないんだろ? アンタ以外の仲間はどこに潜んでやがるんだよ」
「事を急ぐなよ。僕が合図するまでフライングするなって言ってあるからさ」
その言葉を信じて良いのか。
忍以外の敵を誰一人と目にしていないが、周りを取り囲む気配は一層強まって行く。
忍はピカピカと光る観覧車を背に、「ただ──」と言葉を濁した。
「初めてのおもちゃを手にした子供ってのはさ、じっとなんかしていられないんだ。お預けを喰らって我慢なんてできないんだよ」
「待てよ、それって!」
忍の言葉が何を意味するのか、京子にも分かった。
「けど俺は、約束は守るよ」
目の前にそびえる建物の上部で強まった気配に、京子が身構えたその時だ。
今度は忍の気配が跳ね上がる。何かが起きるよりも先に、踵を回した彼が光の球でその位置を貫いたのだ。
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