「伯父さん、ごめん」
颯太が龍之介に呼ばれて出て行ったのを見計らって、修司はアルガスのテントを飛び出した。
警備の護兵に心配されたが、「大丈夫だよ」と押し切る。
仲間が生きるか死ぬかの戦いをする最中に、ずっと横になんてなっていられなかった。
『安静にしろ』という颯太の言い分は理解しているつもりだが、じっとしていなければならない程の症状は何もない。
ただ、打った所が少しだけジンとしていた。
「やってやる」
しばらく休んでいた間に、体力は十分に回復している。
他の仲間が戦っている場所を避けて、修司は散開する敵を一人ずつ攻撃していった。
フィールドにはもうかなりの数のキーダーが入っているが、まだこんなに弱い敵が残っていたのかと驚くほどだ。
一人に対して一分も掛からない戦闘は、趙馬刀の出番すらない。手中に生成した光を飛ばし、境界線に沿って走って行く。
気付くと巨大な廃墟の裏側へと入り込んでいた。海がすぐそこに見えて、途端に明るさが半分に落ちる。
薄暗い視界に目を凝らして、修司は走り続けていた足をハッと制止させた。
香水の匂いがする。
姿の見えないその相手が想像通りなら、どうやら大当たりを引き当ててしまったのかもしれない。
辺りに漂う空気が一変する。踏み込んではいけない場所だと気付くのが遅かった。
気配に圧倒されて逃げる事も出来ず、冷や汗が噴き出る。
「ちょっと……待てよ」
全身に満ちる恐怖に立ち竦んだ修司の前に、
「若いのは威勢が良いな」
暗闇の奥に金色のピアスがキラリと光って、徐々にシルエットを浮きだたせる。
「アンタ、さっきはこんなんじゃなかったよな?」
ヘリから下りた時に地上で待ち構えていた彼は、もっと気配を抑えていた筈だ。
ホルスのトップである忍がバーサーカーだという情報はないが、徐々に肥大していく気配は最近の綾斗に近いものを感じる。
頭に蘇るのは、排除したいほどに残酷な九州での彼の記憶だ。
「君はさっき京子の側に居たコだよね。あぁ確か佳祐が死んだ時も会ったっけ」
「…………」
「もう少し様子見てからにしようと思ってたけど、そっちから来たなら俺もそろそろかな。いいよ、相手してあげる」
「…………」
彼の戦いに関するデータはない。佳祐を殺した時も一撃で、さっき廃墟の壁を壊した威力も飛び抜けて大きいものには感じなかった。
空間隔離を使えるというが、辺りに誰も居ない今の状況では張られたところで何も変わらないだろう。
「ただ、スゲェ強いって事だけは分かるよ」
ただ立っているだけなのに、忍は既に戦闘モードだ。
つい笑ってしまいたくなるレベル差に、唇の脇がヒクリと震える。
戦ったら一瞬で死んでしまうかもしれないが、修司には逃げられる選択肢も余裕もなかった。
「もう一度くらい会わせてくれよ?」
脳裏をよぎる美弦を思って、修司は趙馬刀を構える。
「君が女子だったら見逃してあげるんだけどね。残念、俺は男には厳しいんだよ」
ニコリと目を細めた忍が、「やろうか」と微笑んだ。
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