朝のトレーニングを済ませて食事をとった後、久志からの招集で京子たちキーダーは会議室に集められた。
ホルスとの戦いへ向けて、技術部と桃也が決断した作戦を聞かされてどよめきが起きる。
「銀環の抑制機能を開放させてもらうよ」
「外した状態になるって事か?」
「流石にそれをしたら銀環してる意味が無くなっちゃうから、暴走しないようにだけしとくってのが桃也の判断だ」
能力者が暴走するきっかけは、エネルギーの数値とは別にあると久志は説明する。
「暴走のトリガーをロックするって言えばわかる?」
「……って事は、戦う能力が最大値になるんだろ? 個人の能力が露見するって事だな」
昨夜合流したマサの「マジかよ」という声に、本部の四人も戸惑いを隠せない。部屋の端で黙る大舎卿は「ほぉ」と感心するように唸るだけだ。
「マジだよ。まぁ一時的な措置だから、終わったら戻すけど。敵の数が知れない以上、こっちも力を底上げして迎えてやらないとね。間に合って良かったよ」
久志は意気揚々に笑顔を見せるが、昨日の徹夜でくっきりと目の下にクマを作っていた。
心配する綾斗に「終わったら寝るよ」と返す表情は、達成感に満ちている。
キーダーが銀環をするのは暴走への懸念が一番の理由だが、本来の力をある程度まで押さえつける事で非能力者への恐怖を緩和させる重要な役割を果たしている。
けれどホルスは能力を抑制する事を邪道だと言い、今回の戦いで銀環の撤廃を提示してきた。ノーマルとの共存など必要ないという。
「俺はどうなるんですか?」と手を上げたのは綾斗だ。
確かに彼は銀環をしているが、バーサーカーだと知れてからの出力はキーダーのそれを遥かに超えている。
「綾斗の銀環はもう振り切っちゃってるよね。今回はみんなと同じように暴走だけ止めるようにするから、体力の配分には気を付けるように。みんなもそうだよ、強い力は吸い取られるからね」
「気を付けます」
「イケるか?」とほくそ笑むマサの横で、京子は「なるほど」と相槌を打ちながら首を捻った。
「けど、キーダーって銀環外したり記憶を戻したりすると色々と反動が来るじゃないですか。今回はどうなんですか?」
キーダーがトールになる時、ずっと銀環に力を抑制されていた反動で数日身体にダメージを受けるのは周知の通りだ。
銀環に限らなくとも、京子は浩一郎に操作された記憶を戻した後、暫く具合が悪かった。あの時の事を思い出しただけで酷い二日酔いのような吐き気が込み上げて来る。
久志は「こればっかりはね」と整った眉尻をぐんと下げた。
「力を使う感覚も変わると思うし、個人で調整を頼むよ。そんなに酷くはならないと思うから」
「お前はやったのか?」
「身をもって実験台になったよ。銀環を結ぶ時と一緒で能力が必要だから、昨日桃也とお互いにやってみたんだ。僕らは大して変化がなかったけど、個人差はあると思う」
「だったら早くやっちまおうぜ」
「ギリギリじゃねぇか」と苦笑するマサは、久志の唯一の同期生だ。失っていた力を取り戻した彼が、今まで着ていたジャージを脱いで桜の刺繍が入った制服を着ている事を、まだまだ新鮮に感じてしまう。
久志は「許してよ」と笑った。
100%元に戻った訳ではないけれど、そんな二人の様子に京子はホッと笑顔を零した。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!