「俺の事、止めてみな」
熱波を浴びせられるようなドンという空気の圧が迫って、綾斗は能力を開放された。
ぶつかり合う力は当たりの空気を巻き込んで、盛大に風を巻き起こす。松本の髪を結わえていた紐が切れ、長い髪が放射状に宙へ舞った。
少し離れた観覧車のゴンドラまでもが、グワングワンと油のない轟音を鳴らして大きく揺れている。
圧倒的な力を見せるバーサーカーの一戦に、他で戦っていた仲間たちの手が一斉に止んだ。
ただ、強い力は能力者の体力を削る。100の出力で挑めば、そう長くはもたないのは目に見えている。
「松本さんは余裕? それとも──」
薬の効果でコンディションは最悪に見えるのに、いざ戦っている時の目は爛々と覇気を宿している。
綾斗は前者を考えて、少しだけ余力を残しておく。それでも周りからすれば十二分に強い。
広いと思っていた境界線の内側を狭いと感じてしまう程だ。
綾斗も松本もフィールドのほぼ中央に居るが、攻撃の余波は明らかに線の外へ達している。
互いに繰り出す力が太い光の筋となって空へ上がり、廃墟の壁がその風圧に剥がれ落ちていった。
光を飛ばし、飛んでくる攻撃を交わしていく。
松本の戦闘スタイルは特殊で、能力を一切使わない手や脚だけのシンプルな攻撃も多い。体力の減りを考慮した戦いは、バーサーカーとして効率が良いのだろうか。
「能力にばかり頼ると潰れるぞ」
脇から飛んできた脚を、綾斗は両腕でガードする。
パワー勝負は分が悪いが、負けてはいられない。ズルズルと地面を横に滑り、背後へと逃げる。
「長引かせる気はないからな?」
「俺だって同じですよ」
「だろ? だったら俺の全てを受け留めてみるか? バーサーカーのお前にしかできないだろうよ」
前置きなどなかった。
返事する余裕も与えられず、松本の言葉と同時に頭上で星が弾けていく──暴走の予兆だ。
「本気ですか!?」
「冗談言うかよ。止めてみろって言っただろ?」
意図的に暴走させようとする松本を前に、綾斗は腰の横で握り締めた手に力を込めた。
彰人に習った隔離壁の応用だ。
「速い」
東北から帰ったあの日から、暴走を受け止めるシミュレーションは何度もしてきた。
松本の起こした光はみるみると膨張し、観覧車に並ぶ程に大きくなる。
風景が白い光に濁っていく。
「来い、松本さん!」
彰人が律の暴走を止めたレベルの話じゃない。
綾斗は胸の前に光を広げ、全力で松本の力を吸い込んだ。
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