戦闘の影響で廃墟の半分は瓦礫と化している。
壁の隙間から中へ入り込み、京子たちは忍を探した。空間隔離の中に居るだろうという綾斗の読みは正しかったらしい。
異次元の壁が割れる瞬間を目の当たりにして、京子は汗ばんだ手を握り締めた。
「来た」
深部から吐き出される気配が、辺りの空気を巻き込んで短く激しい風を起こす。
なびく髪を後ろへ流し、京子は風上に現れた黒い影に構えた。
「気を付けて下さいね」
「綾斗もね」
他に敵の気配はないが、余裕など一ミリもない。
コツコツと近付いて来る足音は1人分だ。薄っすらと浮き出たシルエットに金色のピアスがぼんやりと光る。
相手はすぐそこで足を止め、残念そうに声を響かせた。
「なぁんだ、男連れかよ。また一人で来てくれるんじゃないかって期待したのに」
「私たちが居るって分かって出てきたんですか?」
「それもあるけど、空間隔離がそろそろ限界だったからね」
忍はいつもと何も変わらない様子だ。ナンパ師を思わせる軽い口調は、駅で会っていた頃を思い出させる。
「隠れてたと思った? 少し休んでただけだよ」
ホルスのトップである彼が「邪魔だよ」と綾斗を威嚇して、小石を弾くように指で小さな光を飛ばした。
光が浮き立たせた忍の顔は、ぞっとするほどに笑顔だ。
綾斗は顔色一つ変えずに光を顔の前で仕留め、粉々に握り潰す。ポンという軽い音の後、再び闇が戻った。
「バーサーカーだからって、余裕な顔してんじゃねぇよ」
「忍さん」
次の攻撃を仕掛けようとする忍の前に出て、京子は「待って下さい」と訴える。
さっき知ったばかりの事実を伝えるべきか迷って、吐き出すようにそれを告げた。
「松本さんが亡くなりましたよ」
きっと彼はまだその事実を知らない。
闇に慣れた目が忍の表情を拾うが、彼は声が耳に届かなかったのかと疑う程に平然とした顔で京子を見ていた。
「忍さん──?」
だが、もう一度言おうとしたところでその唇が動く。
「やられたの?」
忍は独り言のようにポツリと呟く。
「アイツが境界線を越えたのは分かってたんだ。俺の言う事なんて聞かずに薬を飲んで、何も言わずにあの男に会いに行ったんだろ……?」
寂しい目をした男は、溜め込んだ想いを吐き出したのだ。
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