戦闘力は五分五分で、疲労のレベルも多分変わりない。
残りの力の配分が勝敗に繋がるのは分かっているが、手を抜く余裕は一ミリもなかった。
後ろへ避けた足を踏み留めて、正面から襲ってくる光を趙馬刀で受け止める。間髪入れずに飛び込んで来た忍の拳がストレートに京子の肩を突いた。
「くっ」
鍛え方に手を抜いているつもりはないが、それでも身体能力の差は否めない。
一発の重みが全身に響き、痛みを堪えて趙馬刀の刃を下から振り上げた。
忍は上半身を反らせて直撃を回避する。彼の髪がハラと舞い、頬に付いた傷が赤く血を落とした。けれど本人は気にもしない様子で足を振り上げる。
京子は蹴りをかわして跳び上がり、空中で態勢を整えた。
少しだけ広がった間合いに、忍が「やるじゃん」と笑う。
「松本は能力者なのに格闘技が好きでさ、俺もたまに相手してたんだよ」
「…………」
普段ならこの程度で疲れる事はないのに、もう息が上がっている。寒空に吐き出す息が白く空気を濁らせた。
やはり能力の使いすぎを否定できない状況だが、観覧車に閉じ込められるような前轍を踏むわけにはいかない。
警戒しながら攻撃を構えると、忍が「ねぇ」と京子を呼んだ。
「さっきも言ったけどさ、俺は君を殺せない。だから俺を殺してよ。それで終わりにしよう?」
忍は指の腹で頬の傷を拭い、両手を胸の前に広げた。
「降参するって事ですか?」
「京子が相手ならね」
「無防備な相手を一方的に殺すなんてできません」
それがキーダーのセリフとして正しくはないのかもしれない。
たとえ相手が敵だとしても、この状態で『はいそうですか』と斬りかかるのは躊躇してしまう。
「手順を追わなきゃダメ? 意外と面倒臭いんだね」
「…………」
遠くから見張る綾斗を一瞥して、そこに桃也と彰人が居る事に気付いた。
彼等に声は届かない。
言われるまま終わらせる事もできず、京子は忍をじっと睨んだ。
「そんな顔しないでよ。じゃあさ、ちょっと話をしてもいい?」
「話……?」
「京子と居たらさ、最初に会った頃が懐かしいなと思ったんだ」
忍は少し困った顔をして、一方的に話を始める。
彼との出会いは今からちょうど一年前だ。
──『ねぇ君、フラれたの?』
最初に掛けられたそんな言葉を思い出して、京子は小さく唇を噛んだ。
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