戦いへ向けて道具の調整が終わっていないらしく、久志は本部の技術部に籠って追い込みをかけるという。
「キイさんとメイさんは一緒じゃなかったんですね。技術部の仕事があるって聞いたから、てっきり連れて来るんだと思っていました」
キイとメイは久志が『優秀だ』と言う、彼の自慢の助手だ。何だかんだお互いに文句を言いながらも、揺ぎ無い信頼関係が成立しているのは傍から見ても良く分かった。
「そうだね。二人も来たいって言ってたよ。けど、置いてきた。僕の我儘だ。あの二人にまで居なくなられたら、僕はもう僕で居られなくなっちゃうから」
久志は「ね」と目を細める。
今控えている戦いは、それだけ激しい事になるのだろう。
やよいや佳祐を失った久志の気持ちを思うと、当然の選択だと納得してしまう。
「久志さん──俺に何かできる事はないですか?」
「ありがとう。けど、綾斗は綾斗の仕事をして。バーサーカーは大事な切り札なんだから、万全にしておかなきゃダメだよ?」
「それは、分かっていますけど……」
「僕は大丈夫。脚の事もあるし、今回は技術部とキーダーとしての仕事を兼任させてもらう事になってるから。まぁ戦況が悪くなったらそうも言ってられないんだろうけど」
「それで良いと思います」
佳祐に折られた脚は普段の生活をする分には問題ないのだろうが、戦いとなれば話は別だ。
頷く綾斗に苦笑して、久志が机から引いてきた椅子に腰を下ろした。
「今回の追加メンバーは分かる? 他の支部から誰が来るって聞いた?」
「まだ確定はしていないみたいですけど、曳地さんが来るらしいですよ。昼前に事務所へ行った時、そんな話してました」
「あぁ──貴さんか」
かつて中国支部で一緒だった相手の名前を聞いて、久志は途端に不機嫌な顔をする。
綾斗が北陸に居る時も、彼の話題が出る度にそんな感じだった。『コーラ男』と勝手にあだ名を付けて、過去の愚痴をこぼしていたのだ。
そういえば少し前に曳地が本部へ来た時は、逆に久志を気に掛けていた気がする。
「久志さんて、曳地さんの事となると不満そうですけど、昔何かあったんですか?」
「色々ね」
細かい愚痴は聞いていたが、ハッキリとした確執があるような気がした。久志は否定をしないものの、詳細までは教えてくれない。
「じゃ、お互い頑張ろう? ちゃんと生き残らないとね」
「勿論です」
意気込む綾斗に、久志は「そうだ」と眉を上げる。
白衣のポケットから小さな白い箱を取り出して、綾斗の前に差し出した。
「良かったら使って」
そう言って久志は中身の説明をする。
「手前みそだけど、いらなければ使わなくても良いから」
「いえ、ありがたく頂いておきます。必要ないって言いたい所ですけど、生き残る確率は少しでも上げておきたいんで」
「なら良かった」
久志は満足そうに微笑んだ。
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