廃墟の中に忍が居ると言って、綾斗が京子と二人で向かった。
後を追う二人に付いて行きたかったが、美弦は怪我を理由に止められてしまう。
松本との戦闘で負った打撲が動くたびにギンと響いた。
こうして立っている分には平気だが、再び戦闘となれば集中を欠いてしまうだろう。
だから久志たちと外に居るよう言われて「分かりました」と答えるしかなかった。
残ると割り切ると、今度は本部で溜め込んだ諸々の話が喉の奥から這い上がって来る。綾斗の九州行きの件もそうだが、今はやはり浩一郎の事だ。
本人は彰人が気付いていないだろうと言っていたが、勘の良い彼が本当にそうだとは考えにくい。
桃也がマサと朱羽にテントへ行くよう指示の電話をする横で、美弦は向かいに立つ彰人をそっと伺った。
さっきの報告で省いてしまったその事実は、本来伝えるべき事だ。
今話さなければ先に浩一郎がここへ到着してしまう──反応が少し怖い気もするが、美弦は意を決して「あの」と切り出した。
「どうしたの?」と答える彰人と目が合うが、思わず続く言葉を飲み込んでしまう。
「えっと、あの──」
「言い難い話なら、何となく想像は付いてるけど?」
「そうなんですか?」
「うん──まぁね」
彰人は苦い顔をする。
「本部からの報告に、キーダーが4人居たって書いてあったでしょ? 美弦ちゃんと、大舎卿と平野さん以外に誰が居るかって考えたら、想像したくない事ばかり浮かんで来るよね」
「────」
「僕の父親の事だよね?」
「彰人さん……」
呆れ顔の彰人に真相を射貫かれて、美弦は「はい」と向こうでの話をした。本部での戦いに、地下牢に居る筈の浩一郎が銀環をして現れた事だ。
「浩一郎さんもこっちへ向かってる筈です」
「ええっ」
その事実に、周りで聞いていた三人が一斉に声を上げた。サードである桃也も初耳だという顔をしている。
当の彰人は押し黙っているが、普段一切漏らす事のない気配を衝動のままに燻ぶらせていた。
「想像したことが無いと言えば嘘になるけど、本当にそんな事になるとはね」
怒りさえ含んだ彰人の小さな声が、鼓膜の奥まで入り込んで来た。
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