足元に広がる衝撃と気配に「これは激しいね」と言いながらも、彰人に慌てた様子は感じられない。
「俺たちも行きますか?」と修司は尋ねるが、彰人は「いや」と断った。
「修司くんは、もうちょっとアンテナ張る努力しとかないと駄目だよ」
「アンテナ?」
それが敵への注意だと理解して、修司は言われるままに闇へと感覚を研ぎ澄ます。
ヘリの音が遠のいて屋上に静寂が広がる。時折吹く風の音に耳を傾けると、燻ぶるように沸く小さな気配を掴むことができた。
ヘリポートの奥にある、別の階段の死角。明かりの届かない闇の中だ。
「それ、隠れてるって言わないからね」
闇を見据えて、彰人が声を掛ける。
「居たよ」と彼が告げた相手は、通信機の奥の仲間だ。
「あぁ大丈夫だよ。こっちでやるからね」そう言ってスイッチを切る。
硬い地面をズリと引きずる足音がして、闇に現れた黒い輪郭が彼女を模るのと同時に、その中心に白い円がぐるりと描かれた。
「え……?」
咄嗟の判断などできなかった。
突如溢れた光と気配の猛烈な強さに、彰人が叫ぶ。
「修司くん!」
声の大きさに驚いて、修司は目を見開いた。
闇を走る閃光が修司のど真ん中を狙う。
何が起きているのか理解する間もないまま、呆然としたまま手を引かれた。
胴体への直撃を間一髪で逃れ、光は修司の腕をかすめていく。
「うわぁぁああ!」
痛みよりも衝撃に我を忘れて叫んだ。
真後ろに落ちた光がジュウと地面を抉り、白く煙を立ち昇らせる。
今度は別の光が修司の正面を塞いだ。
「ごめん、油断した」
「いえ、ありがとうございます」
防御壁を張った彰人が前へ出る。
彼が居なかったら即死していたかもしれない恐怖に、修司は全身を震わせた。
押さえた傷口に血が滲む。左腕に堅く縫い付けられた刺繍の真ん中に穴が空いていた。
とりあえず生きていることに安堵すると、今度はジリジリと患部が自己主張を強めてくる。
「ああぁ」と痛みを声に逃がそうとするが、効果は薄かった。
「生憎、治癒は担当外なんだよ」
そう言って彰人は自分の胸元に結ばれた緑色のタイを外し、修司の腕の付け根に「ちょっと我慢して」ときつく縛り付けた。
素早く攻撃態勢に入った彰人の見据える先に、彼女がいる。
「律!」
「…………」
返事はない。
怒りを含めた彰人の声に、修司は肩を震わせた。普段取り乱すことのない彼が焦燥感を募らせている。
「修司くんを殺そうとしたね。道連れにするつもり?」
律も腕を負傷しているが、修司の怪我がかすり傷に見えてしまう程に憔悴していた。
血みどろの傷口を押さえながら力なく微笑む彼女は、身体のあちこちを赤く染め、艶のない髪を振り乱し、もはや修司の知っている姿とは程遠いものになっていた。
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