斎場の入口で手招く久志が憔悴している事に気付いて、京子は綾斗と彼の元へ駆け寄った。
顔見知りの護兵に扉の手前で敬礼され、「お疲れ様」と中へ入る。
「二人とも良く来てくれたね」
白衣を脱いで制服に黒タイを絞めた久志は、顔色がまず良くない。やよいの事を聞こうとしたが、とてもそこに触れられる状態ではなかった。
「久志さん、ちゃんと寝ましたか? 食事は……」
「あんまり寝てないかな。けど、朝は少し食べたよ。二人とも遠いのに来てくれてありがとね」
いつもの勢いがまるでない。お気に入りの綾斗を前にありきたりな挨拶をする久志は、誰が見ても重症だ。
「しっかりして下さい。久志さんまで倒れますよ?」
「綾斗が僕の事心配してくれるなんて嬉しいね」
「当たり前じゃないですか!」
くっきりとクマのできた目を細める久志。そんな彼を遠くから見つけて、キイとメイが走り寄って来た。
「久志さん、こんなトコに居た! まだ時間あるんですから寝てて下さい!」
久志の部下の双子女子だ。髪型に特徴のある二人だが、今日はどちらも髪を一つに束ねているせいで、京子には見分けがつかなかった。
二人は問答無用で久志の両腕を片方ずつガッチリ掴むと、京子たちに気付いて「あぁ」と声を合わせた。
「京子さんと綾斗くんだったんですか。お疲れ様です」
「二人ともお久しぶり。こんな事になって大変だけど、久志さんの事気にしてくれてありがとね」
「いえ、私たちも久志さんに何かあったら困るんで」
二人は硬い面持ちでペコリと頭を下げ、「行きますよ」と久志の腕を引く。
けれど久志は「ちょっと待って」と京子たちへ顔を回した。
「綾斗は京子ちゃんについていてあげてね」
「はい……どうしたんですか?」
「いや、こういう時だから。じゃあ、二人ともまた後で」
急な言葉の意図を語らないまま、久志はキイたちと奥の部屋へ消えて行った。
受付を済ませて中に入ると、通夜開始までまだ暫く時間があるにも関わらず会場は人で溢れていた。やよいの人望か、アルガスとは関係のない一般人の姿も多く目につく。けれど京子たち以外にキーダーの姿はまだ見当たらなかった。
「誰が来るのかな?」
「今回は状況が状況なんでキーダーは少ないと思いますよ。彰人さんが本部待機するくらいですからね。上は相当警戒している筈です」
「そうだよね。けど、佳祐さんはきっと来るよね」
「恐らく」と綾斗が会場を見渡すが、彼の姿も見当たらない。
──『アイツの事なんて、好きじゃないよ』
この間やよいと飲んだ時、彼女が漏らした言葉に佳祐との関係を垣間見た。
それはやよいの一方的な想いなのかもしれないが、恐らく佳祐もその気持ちに気付いていたんじゃないかと、京子はあれこれ想像を膨らませていた。
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