趙馬刀を構える修司。
「光は出せる? 柄に力を込めて、意識は刃の先端に集中させる――って、こればっかりは感覚を掴むしかないのかなぁ。言葉で言っても分からないよね」
説明する京子自身、首を捻ってしまう。
『刃に集中』とはいえ、実際にそれはまだ目に見えていない。
修司は山での感覚を思い出しながら手に力を込めるが、趙馬刀の刃どころか白い光すら出て来なかった。
「あれ?」と今度は両手で掴んだ柄を前へ突き出して、珍妙な構えで力を込める。必死の策に僅かに拳が光ったものの、あっという間に元の状態へ戻ってしまった。
「修司の歳なら、こんなものだよ。気にしなくていいからね?」
「えっ、そうなんですか? でも、この間はもっと……」
以前なら律の介添えがなくても、もう少しそれらしい光を出す事が出来ていた筈だ。
実力を発揮できず焦る修司に、美弦が何故か嬉しそうに指摘する。
「銀環してるんだもの、当たり前じゃない」
「そうか、銀環! キーダーはこれで力を抑制されてるんでしたっけ」
銀環に込められたノーマルの意思をすっかり忘れていた。はっきり言ってそこまでの性能を感じないが、強すぎる能力者の力を抑え込んでいるらしい。
「そう言う事。でも、暴走の抑止力になってるのは確かだし。対バスク戦を想定したギリギリの数値らしいよ」
京子は「少し座ろっか」とホールの隅に二人を誘った。三人で壁を背に並び、話を続ける。
「キーダーの力は国のもの。もし宇宙から怪獣の大群が襲ってきたら、真っ先にその群れに飛び込むのは、警察でも自衛隊でもなくて私たちなんだから。誰もがそう認識してるように、キーダーは日本の盾だよ。誰よりも先に戦わなきゃならない使命を背負ってる」
厳しい表情でそこまで話し、京子は「でもね」と眉を上げた。
「そこをきちんと理解しておけば、ここに居ることはそんなに窮屈ではないと思う。気構えだけしておけば、後は肩の力抜いていいと思うよ」
「綾斗さんにも同じようなこと言われました」
「でしょ?」と笑顔になる京子。
少なくとも、ここは修司がずっとイメージしていたような殺伐とした所ではないようだ。
「常に狙われるものでもないけど、キーダーを目の敵にする奴は居るから。この力は幾らでも犯罪に絡むことができる。念動力があれば、殺人だって強盗だって簡単にできるしね。自由の定義を正すのもキーダーの役目だよ」
「ちょっと前に面倒な窃盗グループが居たのよ。それを、京子さんが一人で捕まえたのよ」
「へぇ、グループって複数人いたってことですよね。すごい」
まるで自分の事のように胸を張る美弦の横で、当の京子は「まぁね」と苦い顔をする。
「力を使えば気配が残るから、無鉄砲に使いまくるバスクなんて滅多にいないけど。ホルスは財政難って聞くし、何するか分からないから気を付けなきゃね。困窮すると何仕出かすか分からないでしょ? とりあえず私たちは日々の訓練することが大事」
人差し指を立て、京子は「ね?」と話を締めた。
美弦が「はい!」と運動部並みのノリで返事する。
修司は何となく話を理解したものの、パッと浮かんだ『訓練』という言葉が、腕立て伏せと腹筋にしか繋がらず、思い切って尋ねてみた。
「訓練って、実際どんなことするんですか?」
「とりあえず趙馬刀を使いこなすことが最優先かな。美弦も大分使えるようになってきたしね」
「私は、まだそんな……」と美弦は首を横に振る。
京子の口ぶりからは謙遜しているようにも見えるが、綾斗が言っていたように、本人的には不服らしい。
「いいのいいの、少しずつで。修司と一緒ならいいライバルになるね」
京子の提案に、美弦から鋭い視線が飛んでくる。まさに『ライバル視』そのものの睨みに、修司は「オイ」と目を反らす。
「仲良いんだね、羨ましい。あとは訓練って言ったら、防御とか、ヘリからの降下とか色々あるよ」
「そうなんですね。って……え?」
今何か京子が、さらりと物凄いことを言った気がする。
聞き間違いかと思ったが、京子はそれを「しゅっと降りるだけだよ」と上り棒を降りるような感覚で話し、そのまま話題を進めてしまった。
そういえば山で律が『咲く』と言っていたのが、ヘリから降下するパラシュートの事だったことを思い出す。まさか自分が落ちる立場になるとは想像すらしていなかった。
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