「そうしてると逆に怪しいよ」
駅前をきょろきょろと警戒する修司に、彰人が声を掛けた。
「見つかったら戦えばいいんだから、心配することないって」
彼は律と同じことを言う。二人にとってキーダーと鉢合わせすることは、大した問題ではないらしい。
律を待ちつつトイレを済ませて改札前のベンチに戻ると、彰人が少し離れた場所で誰かとスマホで話をしていた。
修司には気付いているだろうが、彼の声は筒抜けだ。気まずさを感じながらそのままベンチに腰を下ろし、修司はあさっての方を向く。
「悪ふざけは良くないよ。僕の事何だと思ってるの?」
少し尖った物言いは、今日初めて会った彼のまだ見ていない一面だった。
相手は何となく女性の予感がする。恋人だろうか。
いけないと思いながらも耳に全神経を集中させるが、詮索する暇もないうちに店から律が飛び出てきて、彰人は「また後で」と一方的に通話を切ってしまった。
「聞いてた?」と背中からバッサリと切られ、修司は「すみません」と肩をすくめる。
恐る恐る首を回すと、彰人が「内緒だよ」と人差し指を口元に近付けた。
いつになくバタバタと足音を鳴らしながら、律が「お待たせぇ」と白いビニール袋を両手にぶら下げて戻って来る。程よくして彼女の背後で弁当屋の電気が二段階ほど暗くなった。
律は甘いタレの匂いがする袋を高く掲げ、
「今日頑張ったご褒美。九時過ぎると半額になるから、おにぎりまでつけちゃいました」
値段も律の心遣いも有難い。修司が「ありがとうございます」と頭を下げると、「こちらこそ」と律は疲れもぶっ飛ぶ満面の笑みを見せた。
三人でベンチに並び、誰に聞かれても問題ないだろう他愛のない話をする。
律一押しのハンバーグ弁当と紀州梅のおにぎりを食べ終えて、発車時刻の十分前に上り列車のホームへ上がった。
パラリと客が散らばったホームで、律が「ちょっと休憩」とホームのベンチに深く腰を下ろす。そして何かを思い出したように「あ」と背を伸ばして、ポケットからスマホを取り出した。
慌てた表情で画面に親指を滑らせるが、ふと我に返ったようにその動きを止め、そのままスマホをポケットへ戻す。
修司はベンチの斜め後ろから、そんな彼女をぼんやりと眺めていた。改めて美人だと思う。年上ではあるけれど、バスクとして彼女の側に居る選択は、楽しそうな自分の未来を思い描くことができた。
ところで。律がいつも連絡を取っている電話の相手は彰人のような気がしていたが、彼がそこに居る以上そうではないようだ。
部屋に飾られていたツーショット写真の相手だろうかと考えた所で、律が「そろそろだね」と修司を振り返った。
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