「颯太くん」
一度テントへ戻ろうとした所を宇波に呼び止められた。
話をしたそうに目を細める彼の横に並ぶと、廃墟からドンという戦闘音が響く。遠くの空が一瞬だけ明るくなって、再び闇を戻した。
宇波は驚いたように瞳を広げたが、またすぐに元の顔をする。
「下がりますか?」
「いや、もう少しここで。君がキーダーに戻ってくれたんだ、心強いじゃないか」
「薬が切れるまでですよ? どうせすぐ戻ると思います」
「それで構わないよ。こんな立場で言うのもなんだけど、やっぱり命は大切だと思うし無理もして欲しくない」
解放前のアルガスに居た頃、宇波が松本と一緒に居る姿を良く見かけた気がする。
彼が廃墟へ漂わせる瞳には、そんな松本が写っているのかもしれない。
「颯太くん、君はここで何かを感じているの?」
「はい? どういう意味ですか?」
「ほら、キーダーは能力の気配を感じることが出来るんでしょ?」
「あぁ──」
突然の質問に戸惑いつつ、颯太は感じるままを口にする。
「ここは戦場なんで、もう息が詰まりそうですよ。空気に匂いが混じってる感じで……今戦っているのは二人ですかね」
「そうなんだ。能力者ってのはノーマルの僕には想像もつかないものを感じ取っているんだね」
「自分では特別な感じはしないですけどね」
「君らしいね」と宇波は笑う。
「僕はずっと自分がノーマルだという事に引け目を感じてた。指示ばかり出して自分では何もできなかったからね。少しずつみんなとの距離を広げてしまったんだ」
「戦いたかったんですか?」
「まぁ、それもあるのかな。だから最後くらいここへ来てみたくなったんだよ」
本音を吐露する宇波に、颯太は「そうですか」と頷く。
「他人の気持ちなんて俺には分かりませんけど、俺は貴方を嫌いだと思った事はありませんよ」
「あんなにアルガスを出たくて仕方なかったのに?」
「貴方が理由ではないですから」
「本当かい?」
嬉しそうに目を細める宇波は戦場に向かって空気を胸いっぱいに吸い込んで、「やっぱりわからないな」と苦笑した。
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