駐輪場の鉄のポールに身を寄せて、美弦は対峙する4人に目を凝らした。
大した出血はないが、叩きつけられた衝撃で全身が軋むように痛い。ようやく立っている状態を見兼ねてか、戻ってきた田中が黙って側に寄り添った。
「何かあったら頼んでもいい?」
「あぁ」
一言呟いて、彼もまた4人を見守る。辺りが静まり返っているせいで、離れた位置でも会話が良く聞こえてきた。
松本は腕に巻いたゴムでバラけていた髪を纏め、傷のある腹に手を当てる。額を伝う汗が頬をぐっしょりと濡らしていた。
「ヒデちゃん、だいぶ薬キメてるみたいだね。人の事言えないけど、能力を持った人間てのは、どうしてそれを捨てることが出来ないんだろうな」
今にも戦闘が始まりそうな雰囲気だが、浩一郎はフレンドリーに声を弾ませた。
けれど他の三人の反応は冷たい。大舎卿は一方的に話す浩一郎を無視して、松本の前に出た。
「戦えぬのなら、ここで終わりにしてやっても良いぞ?」
「それは勘弁してくれ。ここを行かせてくれないなら、強行突破させて貰うよ」
「ほぉ。それはお前がいまだにホルスの人間だという解釈で良いんだな?」
「そうだよ」
大舎卿は見透かしたように呟いて、身長差のある松本を仰いだ。
「お前がここに来た理由など、言われなくても分かるわ。じゃがな、わし等はキーダーとして敵だと主張するお前を行かせることは出来ん」
「そういう固いところが全然昔と変わってないな」
「俺はどうだ?」と横から入り込む浩一郎に、松本は「アンタもだよ」と笑う。
そんな和気あいあいの空気に怪訝な顔を向けて、平野は大舎卿を呼んだ。
「なぁジイサン、だったら手ぇ抜かないで良いんだな?」
「手を抜けなんて言った覚えはないぞ? こちらは三人とは言え、相手はバーサーカーだからな」
「別に俺一人でもヒデちゃんに負ける気はないけどね」
浩一郎が嬉々して開放した気配に、美弦は側のポールをぎゅっと握り締める。
美弦がアルガスに入ったのは彼が襲撃事件を起こしたすぐ後で、まさか今もバスクのままだとは想像もしていなかった。
今こうして突き付けられた現実に戸惑う気持ちは、平野と同じだ。
浩一郎が頭上に放った光に、空が白く霞む。彰人が良く使う防御壁に似たものと同じだろう。輪郭はぼやけてはっきりしないが、耳の奥がキンと痛んだ。
「行くぞ」という大舎卿の合図で三人が松本を囲む。
一瞬で状況が戦闘へ切り替わった。光りと刃、それに直接的な手や脚の攻撃が息をするごとに切り替わって松本を責める。
浩一郎の防御壁が四面に広がる攻撃をアルガスの敷地内に食い止めるお陰で、建物の損傷も微々たるものだ。
怪我の影響など感じさせず攻防を繰り返す松本に、美弦は嫉妬心を募らせた。
「私も」と呟いた声に、田中が「止めて下さい」と諭す。
「アンタはあの人とは違うでしょう? あの人は死ぬ気ですよ」
平気そうに見えるが、松本の身体はもう長くはもたないだろう。
目の前で起きている戦いは、それでも進もうとする松本と、それでも止めなければならないキーダーの葛藤だった。
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