「今言った事、本当なんですか?」
いつから彼はそこに居たのか。
呆然と立ち尽くす修司に、京子と美弦は息を呑む。
綾斗と彰人が、アルガスで収監中の安藤律の所へ行った。京子にとってそれは軽い嫉妬と無事を心配する程度の事だけれど、修司にとっては重さが違う。
安藤律はホルスの幹部だ。そして彼女が居たからこそ、修司が今アルガスに居ると言っても過言ではないだろう。
律は監察の管理下に置かれていて、京子たち一般のキーダーには彼女の居場所さえ知らされていない。昨日の会議で律の名前を聞いただけで動揺していた修司は、きっと今の話を聞いて自分も行きたいと思うだろう。
「綾斗がそう言ってたよ。彰人くんが提案してくれたらしいけど、私もそれ以上の事は分からないの。今日中には戻れるだろうって事だけど、場所も全然見当がつかないよ」
「そう……ですか」
「仕事でしょ」
モヤモヤとした気持ちを溜め込もうとする修司に、美弦がピシャリとその一言を突き付けた。
「分かってるよ」
投げやりに返事する修司の顔に、ぐっと力が籠る。
「分かってるんだ……あの人は敵だし、会った所で俺がどうにかできる相手じゃない。ただ──居たんだと思ってさ」
「居たって何よ」
「存在してたんだなって……」
ボソリと吐き出した心境に、京子は「そうだね」と頷いた。
アルガス内でもトップシークレット扱いの彼女と接触すると聞かされて、その存在が途端に現実味を増してくる。それは京子も同じだった。
修司はスッキリしない表情のまま、緩く握った右手で口元を押さえつける。
「上は、あの女をどうするつもりかしら。ホルスが彼女の奪還に動いているかもしれないんですよね?」
「ホルスはトールの力を欲している。実際にできるかどうかは別として、仲間だった彼女を駒にしたいって考えるのは自然な事だよね」
「アルガスから脱獄できるなんて考えたくない……」
「そうは思うけど、想定くらいはしておかないとね」
ヒートアップしそうになる美弦に、京子が首を振る。
物理的に拘束はしているが、律の意識はまだホルスにあるだろう。
再び安藤律と戦う事になるのだろうか。
横浜で戦った時は、五分五分だった気がする。あれから一年以上が過ぎて、少しは差をつけることが出来ただろうか。
「あの女が出て来るなら、私はやりますよ。絶対に!」
困惑する京子と修司の横で、美弦がわなわなと闘争心を燃やしていた。
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