翌日は遅めの起床から始まった。
施設の都合で先に火葬を済ませ、昼からの告別式になるという。
如月の希望で午前の出席は近親者のみとなった。アルガスからは久志だけだ。
京子と綾斗はホテルで朝食をとり、少し早めに斎場へ向かった。
参列者はまだ少なく、ぱらりぱらりと到着するタクシーが喪服の客を下ろしていく。
まだ特にやることもなく、二人は外のベンチに腰を下ろした。開花直前の桜の下でのんびりと仰ぐ空は、雲一つなく穏やかだ。
「三人とも、仲直りできた……よね」
「あの三人なら大丈夫だと思います」
昨日あれから同期組三人と話をしていない。
佳祐は今朝の便で九州へ戻ったようだ。
「そうだよね」と手にしていたハンカチをポケットに入れて、ふと指先が硬いものに触れる。何となくいつも持ち歩いているそれを片手に掴んで、京子はジャラリと音を鳴らしながら持ち上げて見せた。
斑模様の五色のビー玉だ。
やよいに習った訓練に使うもので、綾斗が本部に来た頃はよく遊んでいた。
「あ、懐かしいですね」
「最近あんまり使ってないけど、お守りみたいに持ってたんだ。久しぶりにやってみる?」
京子はベンチからぴょんと飛び降りて、五つを同時に空へ撒いた。
太陽の光を浴びてキラリと光るガラス玉を、綾斗が地面へ落ちる前に宙で静止させる。余裕だ。
「このくらい、ウォーミングアップにもなりませんよ」
「どこからでもどうぞ」
綾斗は立ち上がって僅かに口角を上げる──それが合図だ。彼の視線は一つも玉を捕らえることなく、浮いたままのビー玉を高く跳ね上げる。動きはそれぞれバラバラだ。
京子は一つ一つに目を走らせて、宙で弾を掴み取った。けれど後方に逸れた一つが、タクシーから降りた客の方へ飛んでいく。
「あ、マズい」
すかさず綾斗が動きを阻止させるのと、客の男がそれを手でキャッチするのは同時だった。
「何やってんだよ、お前ら」
まさかの人物登場にハッとして、京子が回収した四つをポケットへ戻す。
タクシーは何事もなかったように去っていき、声の主が二人に呆れた溜息を零した。
「桃也」
「よぉ、久しぶりだな」
北陸で訓練した彼が今日ここに来る事を予想しなかった訳ではないが、二日前にマサは『桃也は海外に居る』と言ったのだ。海外と一言で言っても、どれだけ遠くの国かは分からないが、こんな短期間で戻るわけないだろうと思っていた。
彼に会うのは、元旦に空港へ行った時以来だ。
恋人同士だった頃よりも、別れようと決めてからの方が頻繁に顔を合わせている。
「こんな所で、こんなもん飛ばしてくんなよ」
「ごめん。けど桃也、海外に行ってるって聞いたけど?」
京子は差し出された青いビー玉を握り締めた。
キーダーの制服姿で現れた桃也は、横の綾斗を一瞥する。
「やよいさんの事聞いて、飛んできた。告別式だけ出てすぐに戻るよ」
「……そうなんだ」
飛んできたと聞いて、ピリと胸が傷んだ。かつて京子の身に何か起きた時、彼は連絡さえすぐにはくれなかった。
今回の不幸にキーダーは全員集まったわけじゃない。実際はほんの一部だったというのに。
寂しさよりも虚しさに近い感情に捕らわれて、京子は彼の胸の辺りへ視線を落とした。
こんな時に不謹慎だとは思うけれど、もし自分が命を落としていたら彼は飛んできてくれたのだろうか──そんな事を考えてしまう。
「やだなぁ」
小さな声で本音を漏らす。
きっぱりと別れたつもりでも、どこかにまだ彼への気持ちが残っていた気がする。それが胸の中で小さく弾け散った。
このまま桃也と話していると、どんどん自分が嫌いになってしまいそうで、京子は「じゃあ行くね」とその場を離れた。
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