長谷川を置いてテントへ戻る。
外に居たのはほんの10分程だが、まさかの事態に颯太が「おい」と声を震わせた。
「アイツ、どこ行ったんだ!」
軽い脳震盪を起こして横になっていた修司が消えていたのだ。
もぬけの殻状態の簡易ベッドは、まだ体温が残っている。
颯太は入口に立つ護兵を呼んだ。
「修司はどこだ? 俺が出て行った時は居たよな?」
「他のキーダーと合流するからと出て行かれましたよ?」
腕時計を見ながら「2分前です」と付け加える男に、颯太が「マジかよ」と舌を打った。
トイレくらいならと龍之介はポジティブに考えていたが、事態は良からぬ方向に動いているらしい。
「修司さん、戦っても平気なんですか?」
「平気じゃねぇよ。あのバカ、もう少し大人しくしてろよな」
「俺が颯太さんを呼んだから……すみません」
「いや、俺が言って行かなかったのが悪いんだよ。気にすんな」
「申し訳ありません」と便乗する護兵に「いいよ」と首を振って、颯太は空のベッドに顔を落とした。
「キーダーが行くって言ったら、護兵も施設員も止めらんねぇんだよ」
「そう言うものなんですね」
「今のアルガスってのはそういう場所なんだ」
颯太が苦笑すると、遠くで作業していた久志がこちらを振り向いて席を立った。
「すみません、僕も気付けなくて」
「いえ。アイツなら大丈夫だと思います。平気とまでは行かなくても、そこまで重症ではないんで」
「続けて下さい」とジェスチャーをして外へ出る颯太を、龍之介はさすまたを手に追い掛ける。
境界線ギリギリで足を止める彼の横に並んで、戦闘真っただ中のフィールドを見渡した。
少し寒いくらいの風が吹く中、龍之介はあちこちに立ち上る光に目を凝らすが、どこで誰が戦っているのかはさっぱり分からない。
みんなが無事でいて欲しいと祈りながら両手をぎゅっと組み合わせると、颯太が前を見つめたまま「バカだよな」とそっと呟いた。
「修司にもう少し休んでいて欲しいなんて、俺のエゴなんだぜ。アイツはキーダーとしてやるべきことをちゃんとやってるだけなのによ」
「…………」
「俺はキーダーなんて一秒でも早く辞めたかったのにな」
颯太は元キーダーだ。甥である修司とは血が繋がっていないらしい。
アルガス解放とともにトールになった彼は、今アルガスの医師として働き何を思っているのだろうか。
その横顔に強い意志を感じるが、龍之介はただ見つめている事しかできなかった。
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