京子が戦闘区域の外で出会ったセーラー服姿の二人は、薬を飲むことを承知でここへ来たという。しかし何故か戦力外通告を受けて、能力を得ないままフィールドを出たらしい。
ホルスは数を重視していると思っていたが、薬が足りずに間引かれたという彼女たちの主張は本当なのだろうか。
忍の意図が読めず、京子は「うーん」と唸りながら二人をじっと伺った。
高校生くらいだと思っていたが、よく見るともう少し若い感じがする。
「貴女たち、歳はいくつ?」
「15です」
「高校生?」
「……中学です」
ただでさえ言い難そうに話す声が、更に小さくなった。
もう夜の10時を過ぎている。中三の女子が友人と外に居る時間じゃない。
京子が『やっぱり』という気持ちを抑えて「そうなんだ」と頷くと、右の少女が左の少女に促されてここへ来た経緯を話した。
「前に遅くまで外で遊んでたら、酔っぱらったオジサンに絡まれたことがあって──」
そこで助けてくれたのが、ホルスと関係のある男だったらしい。
「少しカッコ良かったから、連絡先聞かれて交換したんです。それから一緒に遊ぶようになって」
「結局ナンパされたって事なのかな?」
「出会いですよ」
何故かそこは二人で声を揃え、強めに主張する。
京子は押され気味に「分かった」と答えた。
「薬でキーダーになれるなんて信じてもいませんでした。今日の事はイベントだって説明されて、その後遊ぼうって誘ってくれたから来たんです」
「えぇ……薬飲むって聞いてたんだよね?」
「薬なんて、その時だけのものなのかなって」
風邪薬とでも思っているのだろうか。それだって大量に摂取すれば命に係わる。
少女たちの危うさに、京子は困惑した。
「もっと警戒しなきゃダメだよ。薬ってだけで怪しいと思わなきゃ」
「…………」
「けど、よっぽどその男の人に惚れちゃったんだね」
気になった相手に誘われたら、警戒心というものは無くなってしまうのかもしれない。
二人は「だって」と声を合わせて主張する。
「年上の男の人って魅力的じゃないですか?」
「……え?」
思わぬ質問に、頭が途端に冷静になった。
京子の周りで大人の男と言えば、まず思い浮かぶのはマサだ。彼の魅力を並べてみようとするが、とても自分の恋愛対象としては想像できない。
「私は別に……好みなんて人それぞれだよ。けど、幾らカッコいいからって、訳の分からない薬飲んじゃ駄目だよ。たかが一錠で死ぬことだってあるんだよ?」
「それは……今は分かります」
死という言葉には敏感になっているらしい。二人は急に顔を強張らせた。
「私たち、中に居たらもう生きていないと思います。忍って人はそれを分かって逃がしてくれたんだと思うと、帰れなくて」
「あの人は貴方たちにとって優しい人かもしれない。けど、やっている事は許される事じゃないの。ここにいても、負ける姿を見るだけだよ?」
忍のやっている事は許される事じゃない──自分の頭に叩き込むように繰り返して、京子は「帰ろう」と促した。けれど二人は一ミリも納得していない様子だ。
「お姉さんはキーダーですよね? あの人と戦うんですか?」
「忍さんを殺しちゃうんですか?」
「…………」
即答することが出来なかった。
キーダーならその手段を選ばなければならない時があるし、覚悟はできている。なのにそれを口にしてしまえば、忍を恩人だと思っている二人には人殺しに写ってしまうのかもしれない。
胸が痛かった。けれど、もしそういう場面になったら九州の二の舞にはしたくない。
「私は、彼と戦うと思う。殺してしまうかもしれないし、殺されてしまうかもしれない。だから、ごめんね」
京子は不安気な二人に小さく微笑んで、その『動』を奪った。キーダーの力だ。
これ以上話している暇はない。
どこか安全な所へ──それ以外の選択肢を考えることはできず、目を見開いたまま硬直する二人を、護兵へと託した。
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