戦闘区域のど真ん中。
廃墟から少し離れた木の多い広場で、松本と大舎卿が激しい光を轟かせた。
先に仕掛けたのは大舎卿だ。ずっと裏に潜んでいた松本の気配が動き出すのを逃さなかった。
「久しぶりじゃのぅ」
「誰かと思えば勘爾さんじゃないですか。ここで会えるなんて光栄ですね」
「良く言うわ。ワシが来るのなんて分かっていたじゃろうに」
「まさか」
笑顔さえ垣間見せる挨拶は、まるで気持ちの入ってない音で響く。数十年ぶりの再会を喜ぶ感情など互いに持ち合わせてはいなかった。
大舎卿は浩一郎とは仲が良かったが、他のキーダーとはあまり親しく話した覚えもない。
ただ、強い相手と戦う事に高揚するのはキーダーの習性だろう。
松本は一度バスクになった後、ホルスの作り出した薬で能力を復活させている。かつてバーサーカーと呼ばれた力をどこまで操ることが出来るのか知っておきたかった。
「出し惜しみするなよ」
「勘爾さん相手に手抜きする余裕なんてないですよ」
「そうか──?」
大舎卿は辺りの木から伸びる太い枝を足場に、空中戦へ持ちかける。
「若いですね」と跳躍する松本は、顔こそ年相応だが動きは昔と変わりなかった。
身に降りかかる状況を達観して飄々と生きる彼は、躊躇なく攻撃を仕掛けて来る。
けれど、それが全力かと言われればバーサーカーのそれとは違っていた。
「勘爾さんこそ、小手調べのつもりですか?」
「どうかのぅ」
今、百の力を出し切る気がないのはお互い様だ。
せり出た枝の端から跳び上がって、互いの攻撃が爆音を立てて空中で弾け散る。
松本はフワリと地面に着地し、木の上に立つ大舎卿を見上げた。
「この位にしておきましょうか」
「もう止めるのか?」
「若くないんで、体力がないんですよ」
「そうは見えんがな」
戦い始めてまだ数分だ。
前に松本と会った京子は、『薬漬けで顔色が悪かった』と報告書に書いていたが、今こうしている分には呼吸1つ乱れていない。
このまま倒してしまうのもテだと思いつつ、大舎卿は構えを解いて地面へ下りた。脳裏に宇波の顔が過ったからだ。
松本は大舎卿がわざと見せた隙を読んで、素早くその場を去った。
☆
大舎卿との戦闘を捨てて、松本は数百メートル離れた立体駐車場の壁の裏に雪崩れ込むように倒れた。
平気なフリをして戦えるリミットが、少しずつ減っている。
「くそ」とポケットを探って取り出したのは、一枚の集合写真だ。もうずっと持ち歩いているせいで劣化が酷い。
ぼんやりとした照明の明かりに翳すと、彼の顔がはっきりと見えた。
「宇波さん……」
吐き出した声に喉が閊えて、大きく咳込む。
ドロリとした液体が写真を黒く染め、松本は指でその血を拭った。
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