「君たち二人、もう帰って貰って良いかな?」
唐突な戦力外通告に、セーラー服姿の女子二人は不安顔から焦りへと表情を一変させた。
「いやあね、まさかこんなに集まって貰えると思わなかったから、薬が足りないんだよ」
「そんな──」
オーバーサイズのカーディガンの袖口をぎゅっと握り締める二人は、納得がいかない顔を貼り付けたまま足を震わせている。
「キーダーと同じ力が使えるようになるって聞いてここに来たんでしょ? その好奇心と行動力は俺にとって有難いものだけど、君たちに戦う為の力なんて要らないんじゃない?」
「それは……」
「戦うって事は死ぬかもしれないって事だよ?」
別に薬が足りない訳じゃないが、彼女たちが薬を飲んだところでさほどの戦力にもならないだろう。
「やめときなよ」と笑顔で諭すと、彼女たちが周りの男たちの顔色を伺い始める。数合わせの為に脅されてここへ来たのかもしれない。
逃げれば見返りが来る──そんな不安が彼女たちをその場に引きとめているのかもしれない。
「逃げた背中を襲おうなんて思ってないよ。襲わせもしない。俺が約束してやるよ」
信用されているとは思わないが、二人はそれを聞いて見合わせた瞳を大きく見開いた。
「どうしよう」と戸惑いながらも、周りの男たちが投げる不穏な空気を一掃するように「ありがとうございます」と声を合わせる。
二人が去るのを待って、忍は「よし」と再び階段を半分まで上った。
「とんだ茶番だったね。じゃあみんなに薬をあげようか」
忍が畳み込んでいた薬のシートを出すと、どよめきが起きた。
夜になる寸前の闇に溶け込んでしまう程の小さな錠剤だったからだ。きっと後ろの方は状況すら読めていないだろう。
そんな中、最前列に居た太眉の男が野太い声を張り上げる。
「そんなのでリョージみたいになれんのかよ」
彼の言葉は周りの本音を代弁したようで、「そうだ」と頷く声が少なくなかった。
半信半疑な気持ちの連鎖を止めるように、リョージが自分の指先に光を灯して見せる。2錠目の効力は薄れているが、皆を黙らせるには十分だった。
「薬って言っただろ? どんなの想像してたんだよ。俺と同じ力が欲しいなら、うるせぇ事言わねぇで飲めよ」
リョージは光を消した手を広げ、サングラスをした顔にかざす。ニヤリとキメた顔に忍は乾いた笑顔を送り、一粒ずつ薬を配った。
全員が飲み込んだのを確認して、忍は大きく声を上げる。
「すぐに効果は出ないと思うけど、15分もすれば力が使えるようになると思うよ。仕事が済んだら、帰って貰って構わないから」
みんな、半信半疑な表情を掌に落としていた。
3粒目を飲んだリョージからは既に能力の気配が立ち上っている。気配を消すなんて発想すらないだろう。
少しずつ辺りからも気配が湧き出すのが分かった。
ここから引き返すことはできない。これから始まる戦いのスタートを思わせる光景だ。
「良い眺めだね」
小さな一錠の効力は、高橋の研究の全てだ。
「で、俺たちは何をすればいい?」
「君たちにはキーダーと戦って貰うよ」
リョージの問いに、忍はあっさりと答える。そこにいる全員が耳を疑った。
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