浩一郎の話を聞いてから、彰人がどことなく苛立って見えるのは気のせいではない筈だ。
廃墟へ向けて歩きながら、彼は父親の話を口にした。
「本当に桃也は知らなかったの?」
「あぁ。企てたのは大舎卿として、長官は知ってたんだろうけどな」
「長官も含めて解放前の人たちは、妙な団結力があるもんね……困ったものだよ」
呆れ顔で溜息をつく彰人から、いつものポーカーフェイスが消えている。感情的に愚痴をこぼす姿など初めて見た気がした。
「あの人がキーダーだなんてって思うけど、僕が襲撃事件の後にこうしてアルガスで仕事できるのは長官の恩情の部分が大きいからね、この事実も受け入れなきゃなのかな」
「堅苦しく考えるなよ。別に好きなようにやれば良いんじゃねぇの?」
「それが次期長官の言葉? 今の長官もそういうトコあるよね」
煌々と光る観覧車の辺りは比較的まだ被害が少ない。桃也と彰人は側の入口を狙って廃墟へ近付くが、建物に入り込む手前で空気の流れが一変した。
「おい」と横を歩く彰人と顔を見合わせ、急に上昇した気配の量に足を止める。
「彼が出て来たんじゃない?」
「空間隔離が解けたって事だよな?」
「そうだね。京子ちゃんの気配も何となく分かるし、そっちだと思う。けど──どうする?」
彼女の元へ駆け付けたいと思うが、敵が忍一人ならば出来る事は少ない。
ただ、ここでじっとしていられるほど気は長くないのも事実だ。
「とりあえず行ってみようぜ。ここで立ってても仕方ねぇだろ」
遠回しに近付いて、後はその時に考えればいい。
「桃也、さっき言ったこと覚えてる?」
「引けって言われたら引けって話だろ? 守る努力はする」
「努力だけじゃ行かせられないよ?」
あり得るかもという迷いを、彰人はきっぱりと否定する。
どうせなら京子を押し退けて自分の手で忍と決着をつけたいと思うが、彰人の意見が真っ当だというのは分かる。側でブレーキをかけてくれるのは有難い。
「分かったよ、約束する」
「うん」
彰人は満足げに答えて、先に廃墟へと足を踏み入れた。
戦闘の気配を追うと、視界の奥で白い光が勢い良く動いているのが見える。
「戦ってるのは京子か?」
「だね」
確信をもって近付くと、見覚えのある背中が通路を塞いだ。
「綾斗」
戦いを見守る彼が「来たんですか」と驚いた顔で振り向く。
「桃也さんが来てどうするんですか。ウチが負けますよ?」
「無茶はしねえし、死ぬ気もねぇよ。それより──」
今目の前で起きている戦いの違和感に、桃也は困惑する。
銀環の抑制機能を緩めた京子の能力が、明らかに低くなっている。忍の攻撃に必死に食らいついているが、押されている感じが否めない。
「力を使いすぎたか?」
力の配分には気を付けろと注意されていたが、こう戦闘時間が長いと少しずつ疲労が蓄積されているだろう。
だったら自分が行きたいと思うが、走り出そうとした衝動を横から綾斗に止められる。
「貴方が行ってどうするんですか。彼女が倒れそうになったら俺が行きますよ」
「はぁ?」
「まぁ最もな意見だよね」
戦う二人を見据えて、彰人が「それより」と眉を顰める。
「敵も相当疲れてるよね」
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