車輪型の光が視界を斜めに横切る。
触れそうになったその攻撃を背後への跳躍で逃れ、京子は趙馬刀を構えた。
地面に突撃した光が、グルグルと土にめり込んで弾ける。
以前の戦いで、同じ攻撃を趙馬刀の刃で受け止めた事があった。あの時の感触は今も手に残っている。
「律!」
迷いなく叫んだ相手を間違える訳ない。
この攻撃を他に操る人間を見たことが無かった。
ホルスの幹部だった女、安藤律だ。
いつこの戦場に入り込んだのかは分からないが、記憶と似たカーディガンとロングスカートに乱れた様子はない。
夜の色が彼女を引き立てているのか、大きな瞳も風になびく長い髪も一年前と同じで、ずっと地下牢で過ごしていたようには見えなかった。
「どうして戻って来たの?」
「…………」
律は黙ったまま、感情のない顔を京子に向けている。
それでも攻撃のタイミングを狙って、お互いに相手の出方を待っている。
「脱獄したなら、そのまま逃げられたんじゃない? 修司にでも会いに来たの?」
「…………」
「それとも、彰人くんって言った方が良かったかな?」
律と、修司と、彰人と──三人の関係は少々複雑だ。他人の京子が入り込めるものじゃない。
案の定、律はその名前に苛立って伏し目がちだった瞳を大きく開いた。
「……はぁ?」
ぽつりと吐いた声を懐かしいと思う。
全力で戦える相手を前に興奮を隠しきれず、京子は気配を増幅させた。
「やる気なら良いよ。敵か味方かって事以外、理由なんて要らないもんね」
「そうね」と律は笑んだ。下がっていた口角がゆっくりと上を向いて、生気のなかった瞳に光が宿る。
「私はホルスとしてここに来たの。貴女とまた戦えるなんて、何かの因縁かもしれないわね」
「そうだね」
けれど互いに立ち昇らせた力を解き放とうと構えた瞬間、
「律さん!」
修司の声が戦意を遮る。彼が二人の間に飛び込むまで一秒と掛からなかった。
「修司」
「修司……くん」
かつてホルスへ取り込もうとした律と、彼女の元を離れてキーダーを選んだ修司。二人もまた横浜以来の再会だ。
京子は律と戦いたかった。けれど、
「京子さん、俺にやらせて下さい!」
「お願いします」と訴える修司の趙馬刀の刃が、いつも見るよりもだいぶ大きかった。
ずっと律に会いたかった修司の気持ちを撥ね除けることが出来ない。
「修司は強いよ。けど、慢心しちゃ駄目だよ? 気を付けて」
「はいっ!」
緊張の声に修司の肩を叩いて、京子は別の気配がする方向へと地面を蹴った。
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