さっきまで、もう少し酔いたいと思っていたのは事実だ。
同窓会でアルコールが回らなかったのは、クラスメイトに溶け込めなかった事と、何より彰人と同席したことで、ずっと緊張していたからだと思っている。
だから彼と二人きりになるというシチュエーションは、本末転倒な気がした。
彼に何かを期待しているわけでも警戒しているわけでもないが、少しだけ後ろめたい気持ちを覚えて、すぐに返事することができない。
「それとも、誰か気になる人でもいる?」
「えっ……」
「京子ちゃんの気持ちは、もう決まってるんじゃないの? それとも桃也の事が忘れられない?」
「何の事言ってるの?」
心の底を読まれている気がして、京子は首を傾げて惚けて見せた。その感情は、まだ自分でもきちんと触れられない場所にある。
「困らせちゃったか。ごめんね」
「ううん。けど、桃也の所に戻るつもりはないから」
「それでいいんじゃない? 京子ちゃんが誰を好きでも、僕は京子ちゃんのこと応援するから。同僚で、同級生で、幼馴染み──一番の友達でしょ?」
「彰人くん……?」
「だからこれからは、そこに親友って言葉も混ぜておいて」
親友なんて言葉は、同性も含めて京子にはあまり馴染みのない言葉だった。陽菜ですら、『幼馴染み』と言う言葉を使っている。
くすぐったい響きに肩をすくめて、京子は「うん」と頷いた。
「親友なんて言われたの初めてかも」
「それは光栄だね。この間のチョコもありがとね、美味しかったよ」
「なら良かった」
何だか照れ臭い気分になって、京子は軽く勢いを付けて立ち上がる。
彼の動向にモヤモヤしていた自分が馬鹿らしく思えた。
「じゃあ、一軒だけなら行こうかな」
「うん、決まりだ」
彰人はコートを整え、広場から駅の中へと足を向ける。
「え? こっち?」
「だって、アーケードに戻ったら誰かに見られちゃうかもしれないし」
「そうだった」
駅の中にも幾つかお酒を飲める店はある。
やましい事をしているわけではないが、なるべくなら誰の目にも触れないでおきたかった。彼に好意を抱いている女子に『抜け駆け』などと思われてしまったら面倒だ。
けれど彰人はエスカレーターを上ったところで、飲食店側とは反対方向へ進んだ。戸惑う京子を気にもせず、彼は改札横の券売機前で財布を取り出す。
「ちょっと彰人くん、どこ行くつもり? ここって新幹線の──」
「うん。ホワイトデー会えそうにもないから、チョコのお礼ってことにしておいて」
「えぇ?」
まだ時間は早かった。電光掲示板には、上りも下りもこれから出発の便が表示されている。
どっちだろうとボタンを押す彼の指を追って、京子は「あっ」と目を見開いた。
「ここから仙台まで約125キロ。新幹線だと40分で行けちゃうんだよ。だから京子ちゃん、一緒にプラトーへ行こうよ」
「それって、もしかして平野さんのお店?」
懐かしい響きに、京子はパッと破願する。
「当たり」
彰人がいつものように目を細めて微笑んだ。
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