アルガスが設営したテントのすぐ脇に一台のバイクが停まって、ライトの光がフッと闇に吸い込まれた。
「誰か来たね」
先に彰人が気付いて、桃也も「ほんとだ」と顔を起こす。
大っぴらに開放している感じではないが、そこに能力の気配を感じた。
敵の偵察にフィールドを回っていた曳地が興味あり気に「ありゃ何だ?」と久志を引き連れて合流してくる。
「うちの施設員のバイクだと思うので、キーダーの誰かを連れて来たんだと思います」
「そうなのか」
「恐らく、本部からじゃないですかね」
曳地は「へぇ」と目をかっぴらく。
彰人はバイクの主が誰なのか見当がつくようだが、桃也には全く想像がつかなかった。
本部所属の施設員はあまり把握できていないのが現状だ。
「向こうに4人もいらねぇしな」
桃也が目を凝らすと、一つの影が境界線を飛び越えて来るのが見えた。
「美弦ちゃんかな」と最初に言い当てたのは久志だ。ハッキリと顔は見えないが、全体的に小柄な背格好とボブヘアで間違いはないだろう。
「美弦」と桃也が呼び掛けると、すぐに彼女の声で「はい」と返事が届いた。
輪郭が徐々に鮮明になって、数メートル先から一気に4人の元に飛び込んで来る。
「美弦、お疲れ」
桃也が労うと、美弦は酷く疲れたように肩を上下させて、本部であった事を報告した。
「──それで、私が先に来させてもらいました。後で平野さん達とも合流予定です」
「分かった。長官まで来るなら、マサと朱羽さんに護衛を頼んだ方が良さそうだな」
「平野さんは長官とは馴染みが薄いから、それで良いんじゃない?」
久志の意見に彰人が相槌を打つと、美弦が辺りを見回して「ところで」と小首を傾げた。
「綾斗さんや京子さんはいないんですか?」
「あの二人は敵の所へ向かってる。綾斗くんが建物の中だろうって当たりをつけたんだけど、応援は欲しいよねって桃也と話してた所だよ」
「なら私が行きたいです!」
考える間もなく美弦がピシリと挙手するが、「怪我してるコは後回しだよ」と彰人に即却下されてしまう。
パッと見た感じは怪我してるように見えないが、彼女があっさり「分かりました」と食い下がる所を見ると、余程の傷を負っているのかもしれない。
桃也には建物の中にあるという気配も、美弦の怪我も見抜くことも出来ない。
彰人と最初に会った頃から思っていたが、これは経験と熟練度の差だろうか。
「行きたいのは分かるけど、美弦は曳地さん達と外を見張っててくれ」
桃也はフィールド内に居るだろうキーダーの顔を頭に並べて、彰人に向き直る。
「長官が来るなら、やっぱり俺は中に入るよ。彰人はフォロー頼むな?」
「さっきの話ちゃんと聞いてた? 君は──」
「無理はしないからさ」
『大晦日の白雪』を起こした自分が長官になるのなら、やっぱり前に進みたいと思う。
「僕が引けって言ったら引くのが条件だからね?」
呆れたように言って、彰人は「全く」と頭を押さえた。
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