廃墟で戦闘が始まるのとほぼ同時に、アルガスからの車がテント横に乗り付けた。
手の空いた施設員が数人外に出て、一斉に敬礼する。
開かれた扉からまず長官の宇波が現れ、「ご苦労様」と皆を労った。それに続いて降りたのが、キーダーの平野と彰人の父・浩一郎だ。
桃也の指示で待機していたマサと朱羽が、制服姿の浩一郎に驚愕する。キーダーの着る桜刺繍の入ったものだったからだ。
入口の騒々しさに外へ出た颯太も、思いもよらぬ事態に「ちょっと」と声を詰まらせた。
「浩一郎さん……どうしたんですか?」
「やぁハガちゃん。いやぁ色々あってさ」
「色々って」
お気軽な返事に颯太は返す言葉も見つからず、掴んでいたタオルを口元に押し当てた。
少し前に本部の地下牢で会った時もそうだったが、マイペースな気性は変わりない。彼がキーダーに戻るなど天変地異でも起きたのだろうか。制服だけでは飽き足らず、銀環までする始末だ。
ただそんな驚きは浩一郎も同じだった。動転する颯太の左手首に目を止めて、「おぉ」と眉を上げる。
「ハガちゃんも一緒だな」
「いえ俺は今だけですよ」
浩一郎から明らかに能力の気配がする。
牢に居た彼が薬を飲む可能性は低いだろう──そう考えると、もしかしたら最初から能力を消してなどいなかったのかもしれない。
物言いたげに見つめ合う二人の間に、宇波が「いいかい?」と声を掛けた。
「僕も初めて聞いた時は驚いたんだけどね。浩一郎君に関しては、ちょっと様子を見させてもらうつもりだよ」
「俺はキーダーに戻りたいなんて思っちゃいなかったけどね」
「なら地下牢へ戻ったら良いんじゃないのか?」
「そう言うなよ、爺さん。外の空気はうまいなって感慨深くなってた所なんだから」
「誰が爺さんだ。アンタより若いんだよ」
あからさまな不満顔を見せる平野に、浩一郎は肩を竦めて見せた。
境界線ギリギリまで歩いて戦場を見渡す宇波は、自分の意思でここへ来たという。
ずっと前線から遠ざかっていた彼を「いつもいない」と京子が愚痴をこぼしていたが、今回は気まぐれだろうか。
「邪魔にならないようにするから、少しここに居させて貰っても構わないか?」
「勿論です。けど、もう少しだけ後ろの方が安全ですよ」
颯太のジェスチャーに従う宇波を、マサと朱羽が少し離れた位置で見守る。
颯太は一度銀次の居るテントへ戻ろうとするが、宇波に「颯太くん」と呼び止められた。
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