戦場のど真ん中から廃墟へ向けて、京子は綾斗と歩いていく。
幾つかの気配をあちこちに感じるが、もう殺気立って攻撃を仕掛けてくる様子はない。目立った敵の姿はどこにもなく、静まり返った夜の風景が風の音を響かせていた。
今更ながら海の向こうに東京の夜景が広がっている事に気付いて、京子は「わぁ」と目を見開く。東京タワーにスカイツリー、そして『大晦日の白雪』の慰霊塔が白い光を灯していた。
まだここがショッピングモールだった頃に見ていたのと変わらない風景だ。
「こんな感じだったよね」
「そうだね」
綾斗の横に居るだけで、ついさっきまで焦っていた気持ちが整っていく。
京子は改めて目の前の廃墟を見上げ、感覚を研ぎ澄ました。
「忍さんはここに居るんだよね? 私にはちょっと分からなくて」
「他の気配も色々混じってるからね。けど、それが空間隔離の中だって事なんだと思うよ。あの人の気配は震える感じがするから、この感じは間違いないはず」
「そうなんだ……」
バーサーカー故の嗅覚は、京子には全く理解できないものだ。
「ところで、綾斗はどうして私と二人で行くって言ったの?」
客観的に見てそれが悪手だとは思えないが、さっきの観覧車での事も考えると普段の彼ならば忍との接触に別のキーダーを選びそうな気がした。忍の態度に少なからず不信感を抱いているのも分かる。
けれど綾斗はそこまで気にする様子もなく「嫌だった?」と京子を覗き込んだ。
「嫌じゃないよ。私も行きたいと思ってたから」
「なら良かった。理由は……俺が京子と行きたかったから?」
綾斗は何故か疑問形で終わらせて、クスリと笑う。
「そうなの?」
「側に居たいのは本当。京子に一人で行って欲しくはないし、目の届く所に居れば安心できるから」
「何か子供の話してるみたい」
「けど一番の理由は、俺と同じ気持ちだろうなって思ったからだよ」
「同じ……?」
「松本さんのこと聞いて後悔したから」
綾斗はそんな気持ちを吐露する。あぁ一緒だと思って、京子は「うん」と頷いた。
「ここであの人と戦えて良かったと思うけど、まさか最後が向こうだなんてね。事後報告はキツいよ」
「私も、松本さんの最期に居れたらって思った」
綾斗がふと立ち止まって、京子は「どうしたの?」と身体を翻す。
バーサーカー同士の戦いで決着を付けられなかった彼は、後悔を滲ませて「京子さん」と仕事モードで名前を呼んだ。
「俺も側に居るんで、ちゃんと終わらせましょう?」
「うん。ありがとね、綾斗」
顔の横に広げられた手をパンと叩いて、京子はそのまま彼の手をぎゅっと握り締めた。
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