意識が戻るのと同時に眩しい光が降って来て、龍之介は反射的に瞼を強く閉じた。
普段とは違う布団の感触に自分の部屋でないことは理解できたが、ここに来るまでの過程が思い出せない。
うっすらと鼻をつく消毒液の匂いは病院だろうか。
ぼんやり考えながら目を開いていくと、龍之介を横から見下ろす仏頂面の男と目が合う。美弦の恋人でキーダーの修司だ。
「あれ……」
制服姿の彼にシェイラとの記憶が紐付けられて、龍之介は慌てて飛び起きる。
鼓膜を突き破るような銃声と塞がれた視界の中、龍之介を呼んだのは美弦の声だった。
シェイラは躊躇いなく銃の引き金を引いたのに、自分が今生きているという事は彼女に助けられたのだろう。ベッドに寝かされてはいるけれど、特に痛む箇所はない。
絶体絶命からの生還に安堵して、龍之介はハッとした。
「朱羽さん! 朱羽さんは!?」
気を失うまでの記憶が揃う。
朱羽がガイアに誘拐されて、龍之介が事務所を飛び出たのはちょうど二時頃だ。窓の外は明るいけれど、時計は四時を回っている。
答えを求めて修司を振り向くと、彼の眉間にぐっと皺が集まった。
「朱羽さんが心配なのは分かるけど、美弦のことも忘れんなよ」
「忘れてなんかいませんよ。美弦先輩に何かあったんですか?」
「覚えてないの? お前は腰抜かして気を失ってたもんな?」
修司が丸椅子から立ち上がり、龍之介の右腕を指差す。
「お前の怪我は、倒れた時に擦りむいたそこだけ」
龍之介の肘の少し下に茶色の絆創膏が貼られている。うっすらと血が滲んでいるが、大したことはない。
「京子さんから美弦の事待ってろって言われたんだろ? 何で事務所に居なかったんだよ!」
「それは……じっとしていられなくて」
「はあっ?」と修司は怒りのままにボリュームを上げて、龍之介に詰め寄った。
襟元を鷲掴みにされた龍之介は、その気迫にたじろいでしまう。彼がこんなに怒りを見せているという事は、彼女に何かあったのは明白だ。
「一人で勝手なことすんなよ! お前、アイツが居なかったら、シェイラにその頭ブチ抜かれてたんだぞ? お前のせいで美弦は怪我したんだからな?」
「怪我? すみません、俺は──」
「ふざけんな!」
修司が強い口調で遮る。
「本当に、すみませんでした。何があったのか、聞かせて下さい」
修司は苛立ちを見せながら、途切れた記憶の前後を説明した。
どうやらシェイラが引き金を引く直前に現場へ辿り着いた美弦が、銃口を彼女の腕ごと頭上へとねじ上げて、弾を空へと発砲させたらしい。
同時に突き飛ばされた龍之介は気絶。どちらも美弦の念動力によるものだ。
美弦が銃を奪うと、シェイラは次にナイフを出して切りかかって来たという。そこで負傷した美弦に爆薬の存在まで臭わせつつ彼女は逃走。
「アイツは隣で治療を受けてるよ。気付いてないようだけど、ここはアルガスだぜ」
「そうだったんですか。ありがとうございます……」
龍之介は部屋を見回した。白い寝具の乗った簡易的なパイプベッドが二台とソファがあるだけのシンプルな部屋だ。
「お前を庇って刺されたんだぞ?」
修司は怒りを含めた声で言うと、感情を逃がすように窓の外へと目をやった。
沈黙した部屋に今度は廊下の騒がしさが響いて、ドカドカと大きくなる足音に二人は扉へと顔を向ける。音は部屋の前で止まり、間髪入れずに扉がバンと乱暴に開かれた。
龍之介は何事かとベッドを下りるが、飛び込んできた彼女の姿にほおっと胸を撫でる。
美弦だった。
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